#Eins【魔封街結社:前編】
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「異」と「人」が綺麗に混ざっている世界にただひとつの街、ヘルサレムズ・ロット。
今日も今日とて“平穏”な朝を迎えた。
* * *
存在だけは知られているが、詳細はほぼ全く不明の秘密結社、ライブラ。
街での不祥事等がない際は、特殊な施錠で守られたオフィスに皆は集まる。
そこから扉をひとつ抜けた先にある、広いような狭い様な部屋。
学校の理科室に置いているような机の上に、所狭しと並ぶ試験管やビーカー。
中の液体は赤だったり、緑だったり、様々で。
ちょうどここで、ひとりの人物が絶賛実験中だった。
「……うーん、いまいち」
一本の試験管を手に取り、頭上まで上げて液体を振っている、赤髪の少女。
白衣を着ており、眼鏡も掛けている所をみると、研究者の様。
「……ちょっと、休憩しよう」
コトリと専用の台座に置き、眼鏡を外した。
次に白衣を脱いで、コートハンガーに掛けていた紺色のロングコートと入れ替え。
それを羽織り、肩に乗った長いポニーテールを手ではねる。
着替え完了と言わんばかりに、ひとつしかないドアへと向かっていった。
* * *
今、オフィスにいるのは二人だけ。
ひとりはスーツをピシッと着ている黒髪の女性、チェイン・皇。
ソファに座り、スマホをいじっている。
もうひとりは、所々に置いてある鉢植えのひとつに水をあげている、先程の少女と同じ髪色に、緑眼、メガネ、巨漢な男。
名はクラウス・V・ラインヘルツ。
光景的に凄くミスマッチだが、これはれっきとした彼の趣味です。
ジョウロから水が流れる音だけが響いていた、そんな時。
出入り口とは違う扉が開き、部屋にいる人間はそちらに目を向ける。
出てきたのは、勿論。
「ふぁ、あ~ぁ……」
伸びをしながらあくびをしている、クラウスより青みがかったエメラルドグリーンの瞳の少女。
「お疲れ様、イヴィリタ」
「……うん、ありがとう……“あに様”」
クラウスを、あに様、と呼ぶ、髪や瞳が類似している彼女、イヴィリタ・V・ラインヘルツ。
ラインヘルツ家、次女であり、末妹。
正真正銘、クラウスの実妹である。
「おはよう、ヴィータ」
「……おはよう、スメちゃん」
右手を上げて挨拶してくれたチェインに、イヴィリタはそれを真似て返す。
次に、水やり途中のクラウスへ、トテトテと近付いた。
因みに「ヴィータ」というのは、呼びやすくした愛称である。
「あまり上手くいっていない、という感じか?」
「……うん。後ちょっと、なんだけど……何が足りないのか、まだ分かってない……」
言い終わり、シュンとする彼女。
無表情を崩したわけではないが、明らかに元気がなくなったのは、兄に分からない訳がないわけで。
「急がなくていい、時間はある。イヴィリタの、好きなようにやればいいのだから」
自分の半分以下な身長である妹の頭に、優しく手を乗せる。
眼鏡で見えにくいが、表情も優しかった。
「……うん、そうする」
「(あ、ヴィータが笑ってる……)」
画面から顔を上げていたチェインだけは見た。
イヴィリタがほんのり顔を綻ばせているのを。
だが、それは角度的にクラウスにはみえない。
なのに、我らがリーダーは満足気な雰囲気だったらしい。
兄妹とは“そういうもの”が多いと、誰かが言っていた気がする。
*