第3夜【魔女の棲む村:後編】
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魔女の調査で赴いたダンケルン村にて。
神田達は雑貨店の店主のご好意で、一晩泊めてもらうことになった。
長方形のテーブルへ、長い部分に神田とシナデ。
その向かいに店主とソフィア、短い部分の片方にゴズが座る。
料理の方はパンと焼いたソーセージ、そしてジャガイモの入ったスープだ。
「すいません、こんなものしか無くて……」
「ありがとうございます、早速いただきます!」
「……いただきます」
ソフィアが恐縮そうに言ったが、それぞれ料理を頂いた。
「美味しいですよ! これはソフィアさんが作ったんですか?」
「えぇ」
「ソーセージもおいひいでふよ。むぐ、あ、パンもおいひい!」
「食うか喋るかどっちかにしろ!」
ゴズが口に料理を入れながら喋っていたので、神田は怒り飛ばした。
それから事の真意等を確かめる為、森や魔女の事をソフィアに聞いた。
“魔女”という言葉を聞いた店主が偶然か食器を落とし、話はそこで終わる。
その夜、何か物音を感じたシナデは、目を覚ます。
汽車で寝ていたからか、深い眠りにはついていなかったようだ。
ベッドで眠っているソフィアかと思ったが……――
シナデは起き上がり、隣の部屋で寝ているであろう神田の元へ向かう。
ドアを開けると、そこにはゴズもいなかった。
「(ゴズさんまで、何処に? 神田を、起こさないと……)」
ベッドで眠っている神田を揺さぶり起こす。
「神田……神田……」
「……ん、シナデか? どうした」
「……ゴズさんが、いない、の……それに、ソフィアさんも……」
「何だと?」
実はソフィアもベッドにいなかったのだ。それを聞いて神田は起き上がり、団服を羽織った。
「外を探すぞ、アクマなら厄介だ」
「……うん」
神田達は店を後にする。
外に出て気配を探っていると、地面にゴズが貰っていたゼリービーンズが落ちているのを発見した。
それはまるで、童話のヘンゼルとグレーテルの様に、道を示していて。
あれはパンくずだったが。
それを追っていく最中、シナデは神田に、昼間のアクマとの戦いであった出来事を話した。
「……神田」
「何だ」
「……今日、森でアクマを倒した時……アクマが、言ってたの……スマナイ、許シテクレって……」
「一体どういう意味だ」
「……分からない、けど……何か、ある気が……する」
「そうだな……」
そうこう話している間にゼリービーンズが途絶え、その場所に一軒の小屋が建っていた。
村から外れた場所にある所為か、異質な、異様な雰囲気が漂っている。
「行くぞ」
「……うん」
神田は小屋の扉を乱暴に開けた。部屋には暖炉があり、目の前にはまた扉が見える。
その扉の向こうで物音がしたので、彼はシナデに合図をしてから扉を蹴破った。
瞬間、部屋から強烈な腐臭が鼻を突く。
あまりにも酷い臭いの所為か、シナデは口と鼻を手で覆い、目を細める。
「顔色悪いぞ、外に出てても……」
「……大丈夫……神田、あれ……」
シナデが指差した前方。ベッドの上に縛られて猿ぐつわをされたゴズと、その隣に店主が立っていた。
「お前もアクマか!?」
「ひいぃぃぃっ!!」
神田は店主に六幻を向けた。店主は悲鳴を上げて転がってしまう。
この反応はとてもアクマではなく、ただの人間の反応だ。
ゴズが何か言いたいらしく、うーうー、と騒いでいる。
猿ぐつわを外すと、大きく息を吐いて涙目で叫んだ。
「わ~ん! 来てくれると思ってました!!」
「五月蝿い! お前何やってるんだ! あの店主なんか相手にならないだろうが!」
「ち、違います!」
「何が違うんだ?」
「店主さんは……――」
その後はゴズから捕まった経緯を聞いた。
店主はゴズを助ける為に小屋に来ていた事。
ゴズは“夢”を見て、目が覚めたらここに縛られていた事。
店主が“魔女”を恐れ、神田達にこのまま村を出るよう促した事。
この発言からも、村にはまだアクマがいる事が予想できたので、このまま雑貨店へ戻った。
恐らく、“魔女”の正体は――
「どうしたんですか!? 起きたら父も皆さんもいないから、心配してたんですよ!」
雑貨店に戻ってすぐ、ソフィアが神田達に駆け寄ってきた。
シナデが起きた時にはいなかったソフィアが。
「ソフィア、話がある」
神田が前に出て話を持ち出した。ソフィアは臆する事なく、慌てる事なく、こちらを見る。
「あの小屋は何だ」
「小屋?……あぁ、“魔女の小屋”ですね」
「あそこにコイツが監禁されていたんだ」
「何ですって!?」
彼女が声をあげてゴズを見た。
「そんな、監禁なんて! 一体誰が!?」
「……ソフィアさん……“魔女”とは、何ですか?」
ソフィアは、少し間を置いて口を開く。
「あの小屋にはつい最近まで、一人の老婆が住んでいたんです」
「それが魔女ですか!?」
ゴズがびくびくしながらシナデの後ろで聞く。彼の質問に、少女は首を横に振った。
「いえ、よそから来て、いつの間にか住み着いた無口な老婆でした。ご存じの通り、ここには魔女伝説が残っています……勿論、本物の魔女なんている訳ありませんけど。これまで村では、そういう変わり者で身寄りのない女が、“魔女”としての役割を与えられてきました」
「役割?」
「えぇ。最低限の衣食住を与えられる代わりに、村人達に忌み嫌われる存在として生きなければならない……それが“魔女”です。魔女は悪い者……だからそいつが、村の全ての災厄を引き受けてくれる、という迷信が信じられていたんです」
「そんな……」
ゴズは絶句した。シナデは黙って聞いていたが、ソフィアは話を続ける。
「一ヶ月前、魔女が死んだんです。私は町にいたから知らなかったけれど」
話を続けるにつれて、表情がだんだん暗くなっていく。
「彼女が死ぬと、村にはおかしな事が起き始めました。飼っていた家畜が次々死んだり、村一番頑強な人が肺炎になったり」
「でもそれって、偶然なんじゃないですか?」
「えぇそうね。でもこの村の迷信深い人達は、魔女がいなくなった所為だと決めつけた。彼らは自分達の平穏な生活の為、新たな“魔女”が必要だと考えた……そして、アンジェラに白羽の矢が立った」
「……アンジェラって誰ですか?」
ゴズの質問に、ソフィアは目をギラリと光らせた。
「私の双子の妹よ、ずっと病弱で寝たきりだったの。だから私は彼女の薬代を稼ぐ為に、町に出て働いていたの」
「妹さんがいらっしゃったんですね……アンジェラさんは?」
「……アンジェラさんは……亡くなられたんですね……魔女に、選ばれて……あんな小屋に、住まわされて……」
「えぇ!?」
「……フフックククッ、その通りよ。“私”はあの小屋で、たった十日で死んだわ。町にいた「ソフィア」は、久しぶりの休みに帰ってきて、私が五日も前に死んだ事を知ったの」
『(私、ね……)』
シナデの言葉を聞いた途端に狂った様な笑い声をあげた彼女。
「そして、ソフィアは千年伯爵に会ったのか」
神田は鋭く言った。その言葉にゴズがハッと気付く。
ソフィア、いや、アンジェラが殺意を込めた瞳を更に輝かせた。
「そうよ、ソフィアは私を呼んだ。そして私の魂は呼び戻され、ソフィアの中に入り、AKUMAになったわ」
「それでお前は……村人を殺したのか」
「えぇ、一人残らず殺してやったわ! まずは子供、次はその親達……子供の死体は小屋の床下に埋めてやった。何人かは身内に呼び戻されていたわ、外にいた奴等はそのAKUMA達って事ね」
「うっ……」
ゴズが口を押さえる。対してシナデは、強ばった顔でアンジェラを見つめた。
無表情に近いものだったが、そこには確かに怒りがある。
彼女のブレスレットが、一瞬だけ光を放った。
一本道にいたアクマが最後に残した言葉、スマナイ、許シテクレ。
あれは自分の家族に向けてか。それとも、くだらない掟の生贄となった娘たちへの謝罪か。
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