code.3【昔と今での繋がり:後編】
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鉄と鉄がぶつかる様な鈍い音。
避難している生徒がまだ来ていない屋上で、密かに戦闘は始まっていた。
「三体でこんなものか? なめるなよ――」
トリオン体に換装したので、専用武器の槍で全ての攻撃を受け止める。
ひとつも、余すことなく。
そこから一度弾き、右端の一体を横一線に斬る。
次に隣は縦一線。
最後は逆手に持ち、眼球の形をした急所を、容赦なく貫いた。
全ての個体は、断末魔をあげ同時に動かなくなる。
「場所取るな、片付けるか。バーニィ」
これで終わりかと思いきや、彼女は再び赤の陣を発動。
言葉を紡いですぐに、モールモッドの下のコンクリートに赤い光の亀裂がはいる。
実際割れているのではなく、あくまでその表面。
そして一際大きな光と共に、爆発音も響く。
日中でも目を覆ってしまうほどのそれが収まった時、残っていたのは細かい塵だけだった。
風に吹かれ、飛んでいく様を見つめる。
しかし、まだ終わっていない。
「あぁ、忘れていた……ボルティ」
別館屋上へと移動させられたトリオン兵が、こちらを睨んでいる……ように見える。
ちらりと一瞥した後、槍の矛先をそちらへ向けたネア。
今度は今までにない黄の陣が現れ、そこから同色の雷光が溢れ出す。
周囲の空気がピリピリと張り詰める中、吸収される様に矛先へ。
技名を発した事が引き金。ただただ真っ直ぐに、モールモッドを貫く。
一瞬の内に機能を失い、断末魔をあげ、伏した。
やっと静かになった屋上で、ネアはペルソナに触る。
右目だけの視界に映るレーダー等のディスプレイを操作し、通信画面を開いた。
「こちらネア。きょうこさん、屋上の近界民は全て片付けました」
「こちら沢村よ、えぇ確認したわ。だけど、反応は後二体残ってる」
「二体? 詳細な場所、分かりますか――」
オペレーターと連絡をとりあう最中、何かに感づく。
「……すいません、人来ました。校庭に下ります」
ドアの方から、沢山の足音と大人の声。
避難場所の中に屋上が入っている事は、自ら通っている学校なので覚えている。
とりあえず話は後にし、柵に乗って、跳ぶ。
トリオン体なので、全く心配は要らない。
落下中、ガラスが割れる様な音が耳に入る。
目をやると、南校舎の三階にある窓にモールモッドが張り付いていて。
運動場へ着地し、いざ走り出そうとしたその時。
大きな音の後、壁から外れた怪物。
そうなれば、重力にしたがって下に落ちるということ。
ただ落ちるだけなら良いのだが、ネアは見つけた。
落下してくるちょうど真下、生徒が一人、動けないでいたのを。
サブトリガーのひとつ、グラスホッパーをすぐさま発動。
ものの数秒で下に到着し、そこからまた上に跳ぶ。
白銀孤月を構え、モールモッドを切り刻む。気が済むまで何度も。
大きな塊のまま落ちてしまえば、生徒達に被害が及ぶかもしれないと考えた為だ。
「これくらいなら問題ないか」
回して矛を下に、槍を地面に差す。
振り返ると、涙目で固まったままの女生徒。
見た目の問題や部署の関係であまり関わらないのだが、放っておく訳にもいかず、ゆっくり近付く。
「大丈夫か?」
「っ、あ……は、はい」
尻餅をついている少女に声をかけると同時に、手を差し出す。
一瞬ネアの姿を見て怯むが、あえて気付かないフリ。
そろりと伸ばしてきた少女を、しっかりと引っ張りあげた。
ペルソナ越しではあるが、視界は良好。
制服に砂は付いているものの、大きな外傷は無かったようだ。
「(ん? こいつ確か、隣のクラスの……)」
ふと、アユは目の前の生徒に見覚えがあった。
黒の短髪に、鳥の羽根の様なくせっ毛の少女。
自然と名前が頭に浮かんできた時。
「佐補姉ぇっ!」
「あ、副!」
校舎の方から、おそらく少女の名を呼んで必死に走ってくる、これまた彼女に似た男の子。
「佐補姉!! 無事だよな!? 怪我は!?」
「だ、大丈夫よ! ボーダー隊員さんが助けてくれたから!」
ぺちぺちと少女の身体を触って、怪我の有無を確かめる少年。
別に変な意味ではなく、“家族”の安否の為である。
「(さほにふく……やはりそうか。一年の時にクラスが一緒だった、あらしやまさんの双子の弟と妹。以前あの人が嬉しそうに、自慢の弟妹だと言っていたな……)」
双子の姉弟、嵐山佐補と、嵐山副。ボーダー本部、A級五位、嵐山隊の隊長、嵐山准の紛れもない弟妹達である。
彼とは仕事上、面識もあり、世間話や模擬戦をする仲。
もちろん嵐山はネアの正体を知らないが、人柄の良い性格のおかげで、普通に接してくれる。
そんな彼が大好きな二人の事は、ちゃんと覚えていたのだ。
「えっ、ボーダー隊員!? こ、この人が!?」
「ちょっと副!」
「あぁ……こんな見た目だからな、驚かれるのは当たり前だ。別に気にしていないし、お前達も気にするな」
いつも通りの反応に、ほんの少し眉を下げるが、なんなく答える。
因みにペルソナの変成器で声の音程を弄っているので、それも加えて怪しい。
しかし今に始まったことではないので、本当に気にしていないとか。
「あの……助けていただいて、ありがとうございます」
「怪我が無くて良かった。それにもう安心していい、すぐにA級部隊が駆けつけてくれる。私は付け焼き刃だからな」
「つ、付け焼き刃って……」
「……まぁ事情があるんだが、それでも私がやるより、A級に任せた方が安心だろう?」
言い終わり、少し喋り過ぎたと感じたアユ。
相手に自分が分からないとはいえ、知り合いで、なおかつ同級生だと無意識に緩くなってしまうもの。
「さぁ、お前達も早くシェルターへ避難しろ。近くにネイバーがいないとはいえ、危険だ」
「は、はい……」
「佐補姉、行くよ!」
気を取り直して、二人に逃げるよう促す。
衝撃で瓦礫の崩壊や窓ガラスの散乱等で、充分危ないからだ。
弟に手を引かれ、走り出そうとする佐補。
「あっ、あの! ボーダー隊員さん!!」
の前に、白銀孤月を地面から取ったネアへ、声を掛けた。
「あの……名前、聞いてもいいですか!?」
周りの轟音からだろうが、若干大きな声で。
まさか名を聞かれるとは思っていなかったので、一瞬驚く。
だが嬉しくも思い、仮面の裏で少し口角を上げながら、少女へ向き直る。
「私の名は、ネアだ。仕事上いつでも救助が出来るわけではないが……もしまた同じような状況であった時、私は必ずお前達を救けると誓おう。じゃあな」
空いた右手を彼女等に上げ、校舎へと走る。
残ったトリオン兵一体の反応が建物内にあると、沢村からレーダーに指示が入った為。
目指すは南館、三階廊下。
「……あの人、見た目は怖いけど、カッコよかったね」
「うん。兄ちゃんは知ってるのかな?」
「さぁ……ほら佐補姉、シェルター行こう!」
「分かってるよ!」
走っていく隊員の背中を見送り、双子は地下室へ。
その表情に、不安の色は無かった。
*