code.16【過去は過去 今は今】
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今から四年程前の話だ。
近界の惑星国家のひとつ、カルワリア。
遊真とその父、有吾は旧知の仲のよしみで、防衛に力を貸していた。
「おれは親父にそこそこ鍛えられてたから、戦闘でもまぁまぁ役に立ったし、半人前なりにうまくやってたよ」
スピンテールという国の侵攻を受けながらも、なんとか保っていたところ。
「おそらくは、黒トリガー……」
相手が雇った刺客はおそらく、強大な力を持つ黒トリガーだと。
手練のトリガー使いが、ほとんど抵抗も無く殺られていたことから予想された。
腕は悪くないが、まだ子供の遊真には危険。
親としても心配なので、砦の中で待機と言い付ける。
「おれが裏を突いて、敵の部隊を崩す」
しかし彼は言いつけをまもらず、トリガーを起動して戦闘に参加しようとした。
相手の背後へ回り、撹乱するために。
残念ながら、それは叶わなかった。
「バカ、なにやられてんだ。ちょっと待ってろ、俺がすぐ助けてやる」
不幸にも、正体不明のトリガー使いに生身も酷く傷付けられ、遊真は瀕死の重体となる。
すぐ治療しても間に合わないくらいの。
有吾は慌てることなく、光に包まれる。
自らのトリオンを注ぎ込み、黒トリガーを作った彼は、砂になって崩れた。
一命は取り留めたが、肉親を失った少年。
大人達の取り繕った嘘を、受け継いだ副作用で見抜くこともできた。
それでも防衛を最後までやり遂げ、戦争は集結。
レプリカの勧めで、遊真は玄界へやって来たのだった。
「おまえ、これからどうするつもりだ?」
話し終わったタイミングで、迅は彼に聞く。
きっと未来視で視えているだろうに。
いつの間にか、こちらを向いていた白少年。
「そうだな……こっちだと近界民は肩身が狭いし、親父の故郷だけど、おれがいるところじゃないな。おれは……むこうの世界に帰るよ」
薄々決めていたことなのだろう。
ちょっとやそっとじゃ揺らがないような瞳で。
「おれがこっちに来た理由はもうなくなった。これ以上いても、ゴタゴタするだけだからな。けど、この何日かは面白かったな。久々に楽しかった」
どうすれば彼のタメになるのかなんて、一概に決められない。
嘘の無い笑顔が迅の後ろから見え、目を細める。
自分には何も出来ないのだから。
「……そうか。これからもきっと、楽しいことはたくさんあるさ。おまえの人生には」
濁す言葉も十八番。それが能力故の言い回し。
コップを傾け最後まで飲み干すと、鮎は立ち上がる。
「ゆーま」
歩きながら、話し掛けた。
気付く少年の右隣へ、縁から足を放り出し座る。
因みに服装はいつものダウンとジーンズなので冷たくはない。
「帰る帰らないはお前が決めることだ。ただ……ひとつ、昔話を聞いていかないか?」
「むかしばなし?」
「あぁ。空から落ちた、銀の民の話」
暗闇に輝く月を見上げる彼女の髪が、風でふわりと靡く。
遊真はその横顔と言葉に、偽りを感じなかった。
止めはしないものの、珍しく真剣な表情になる迅。
少女の背中を黙って見つめていて。
数秒間の後、俯いた少年の顔が上がった。
「うん、聞く」
遠慮してもよかったのに、彼は承諾。もう一度外へ足を投げ出す。
彼女からすれば、嬉しい反応。
「おれも聞きたいな、アユちゃん」
さて、話始めようと思った矢先、反対側から聞き慣れた声。
じろりと横を見れば、自分達と逆方向に座る青年。
「お前には前にも話しただろ」
「良いでしょ、減るもんじゃないし。むしろ増えるし!」
「……勝手にしろ」
この際、関係を隠さないことにした。
もし帰ってしまうのであれば、あまり意味が無いだろうし。
お互い異論はないらしく、言外に理解する。
その証拠に、動揺も指摘もしない。
「(ふむ? この二人、こんな仲良かったっけ?)」
当然違和感を感じる遊真。
何しろ目の前で自己紹介してるのを、数時間前に見た筈だから。
それはさておき、彼女の昔語りが始まった。
*