「待ってください迅さん! 空閑をボーダーに入れるって……」
カンカンカンというお馴染みの音を背景に、思いがけない提案。
城戸に利用出来るとも、林藤にやり方は任せると言われていたが、元も子も無いのではないか。
「おっと、別に本部に連れてくわけじゃないぞ。ウチの支部に来ないかって話だ」
紛らわしい言い方をしたものだ。
勿体ぶるところは、性格の問題だろう。
遊真を見る修だが、彼は何も言わず次の言葉を待った。
「ウチの隊員は、
近界民の世界に行ったことあるやつが多いから、おまえがむこう出身でも騒いだりしないぞ。とりあえずおためしで来てみたらどうだ?」
ボーダーが出来る前からの隊員もいるので、嘘ではない。
斜め横で腕を組む
アユは、いつものように睨んでいる。
「ふむ……オサム達も一緒ならいいよ」
「なっ、く、空閑!」
騙すつもりはからっきし無いが、いってる男が男なだけに怪しい……という偏見。
断ってもいいのに、二つ返事でいいよ、とだけは言わなかった。
「よし、決まりだな」
三人は肯定もしてないのに、なにが決まってるんだろう。
実際興味もあったから、否定もしなかったのだろうが。
とりあえず、迅の所属する玉狛支部に向かうこととなった一行。
ただひとり、元支部隊員の彼女は、静かにこのやり取りを見届けていた。
* * *
玉狛までは、もう少し距離がある。
先導者は変わらず、雑談しながら移動中の折。
唯一同年代の輪に入らず、頭ひとつ分大きい青年の横を歩く薄黄の少女。
二人の時はよくあるものの、ただでさえ表面上は知らない仲なのに、どうしたのだろう。
一瞥すると、スマホでぽちぽち文字を打っている。
少ししてポケットから振動、これは自分の携帯。
表示された通知を見て、なるほどと納得した。
『おいじん、お前何考えてる』
紛れもなく隣の
アユから。
トーク画面に彼女らしい口調で、声に出せない疑問を投げ付けられた。
『遊真の事? 別に裏なんて無いよ。その方があの子達のタメになると思ったからさ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる』
すいすい返信する顔はニヤケている、半分くらい。
文字でもやり取り出来るのが嬉しいから。
歩きスマホ良くない、はこの際置いといて。
『(あの子“達”……)結局は未来が視えてたんだろうが。一言も聞いてないぞ』
『ごめんごめん! 許してよ〜、
アユちゃん』
いつも未来を変えられる人間くらいにしか、詳細を話さない。
そして自分には、その可能性や資格がないのも知っている。
わかっていても、苛立ちは消えないのだ。
てへペロ的なスタンプで更に。
「(この野郎っ!)」
癇に障る絵柄だった為、頭にキてこちらも憤怒全開のスタンプをぽちぽち送りまくる。
最後尾の千佳は、妙によく動く親友が見えて、ひとつ汗をかいた。
『それで、このまま私もついて行っていいのか』
気が済むまで連打した後、大きな溜息を吐いてから本題に戻る。
そもそも迅と嘘っぱち自己紹介するなんて聞いてなかったし、支部に行くなんて以ての外。
『大丈夫、前から全員に伝えてあるよ。お客さんがいる時は、
アユちゃんと初対面のフリをしてくれって』
『そうか』
ハッキリ視えなくても、彼女のための手回しは抜かりない。
だからいつもみたいに『無駄に手ぇ回しやがって』とか言われると思ったが、反応が薄め。
『寂しい?』
冗談半分で聞いてみた。
すると少し間を開けて、まぁな、と返ってくる。
未来は視えず、予想外で、まさかの大当たり。
びっくりして横を見た迅、タイミング良く
鮎も同じ方を。
視線が交わって、睨みつけるのかと思った。
でも怒りはしなく、口角は少々上がる。
だけど眉は下がり、無理して笑っているような。
こんな彼女、見慣れていない。
「(ヤバイ、視えなかったし珍し過ぎて不意打ちなんだけど!)」
未来視は役立たず、加えてレア。
慌てて反対側に向き、心臓に手を当てる。
我ながらドキドキと高鳴っていた。
なんとか落ち着かせた後、再度スマホに向き合い指を滑らせる。
『おれがいるから』
『は?』
一瞬コイツなに当たり前なこと言ってんだ、と聞き返してしまうが、フキダシは続く。
『初対面って形でも、もうおれと知り合ってるから。だからおれとは普通にしてくれていいからね』
「(じん……)」
普通というと、対面一番に殴りかかったりもするが、物理の方ではなく。
会話は若干ギクシャクするだろう。それでも、零より一だから。
今度は
アユが顔を上げると、彼は満面の笑顔。
作り笑いじゃないのが見て取れるくらいの。
『ありがとな』
『どういたしまして!』
素直に嬉しくて、素直に礼を言っておく。
自然と浮かんだ笑みに、悲しみの色は見えなかった。
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