#Uno【La notte del compleanno】
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イタリアのある島、レガーロ。
交易島とも言われるそこは、名の通り、毎日人の絶えぬ場所。
市場では新鮮な食材が売り出され、島の住民や観光客で埋め尽くされている。
本日はレガーロ晴れ。
島のほぼ中央に位置する、ビヴァーチェ広場。
噴水の水が日差しに照らされ輝き、広場の美しさを引き立たせている。
そんな中、ある通りに立ち並ぶ家屋の屋根。
ひとり静かな寝息をたてて寝転がる少女が、そこにいた。
強い日差しを避けるためか、マントに付いたフードを被り、女性であるにも関わらず、足を組んでそのまま寝入っている。
スカートの中は見えそうで見えない。
そう、まさにシエスタを堪能している時だった。
港に近い小さな広場から、大きな爆発音が響いた。
流石に爆音には眠気をそがれたようで、横になっていた体を屋根へ座る様に上体を起こしていく。
被っていたフードは自然と背中へ落ち、彼女の顔が露わになった。
「ったく、また騒ぎかよ……めんど」
せっかくのシエスタを邪魔され、いかにも不機嫌そうな表情を浮かべている。
閉じられた瞳を、ゆっくりと開く。
彼女の瞳は、赤より明るめのスカーレット。またの名を緋色。
髪色は色素の抜けたピンク。ジャッポネの春に美しく咲く、桜。
桜色と表しても、何ら不思議は無い色だ。
その長い髪を、彼女は右に結いあげている……ネクタイで。
「しゃーねぇ、行くか」
やっと動く気になったようで、立ち上がり、島を見渡しながら事の次第を見据える。
微睡みの中で感じた朧気な記憶から、事の次第を予想するが。
「……ま、いいや。この先に行けば分かんだろ」
あっさり考える事を放棄したようで。
屋根から飛び降り、通りの方へ着地すると、すぐさま踵を返して坂を上っていく。
その様子を見ていた住民の子供が、目を輝かせていた。
「ママー! いまのおねえちゃんやねからおりてきたよー?」
「あんな爆音したからねー、お仕事の時間なのよ」
「おしごと~?」
「そう! あなたも覚えておきなさい。彼女が、アルカナ・ファミリアの姫……ウィディーエよ!」
「ウィディーエ、ひめ……!」
子供が目を輝かせて視線を戻した時、姫が羽織っていたはずのマントは、消えていた。
向かった先では、またも轟音が鳴り響く。
* * *
所変わって爆発が起きていた現場。
「くっ、あっぶねえだろダンテ!!」
車から吹っ飛び、今まさに空をきる金髪の青年、リベルタ。
「心配ない」
その車を破壊したランチャーを携え、口角を上げているスキンヘッドの男、ダンテ。
「うっ……え?」
「ほらね?」
「パーチェ!」
落下したリベルタをお姫様抱っこでキャッチした、茶髪でメガネの男、パーチェ。
口元には、ラザニアの食べかすが。
間髪入れずに女性の悲鳴が聞こえ、犯人の男が人ごみの中に逃げていく。
だがそこに、犯人の行く手を塞ぐ帽子を被った黒髪の男性、ルカ。
ナイフを手元に出し、男を追いつめる。
ファミリーに囲まれ、逃げ場を失った犯人。
往生際が悪く、その中にいる赤毛の少女、フェリチータに突っ込んでいく。
彼女も怯むことなくナイフを取り出し、構えた。
だが横から割入り、男の服を見事に切り刻んだのは青髪の少年、ノヴァ。
そして事件に一役買ったであろう銃を、腰のホルスターにしまった 灰髪隻眼の男、デビト。
アルカナ・ファミリアの幹部達が、揃いも揃って事件を解決に導いた。
「一件落着だな」
「ダンテ、さっきの車……あれ、どうするの?」
住人達の歓声が沸く中、燃え盛る車を見たフェリチータは、それを木端微塵にしたダンテに尋ねる。
ダンテがフェルの問いに答えようとした時。
車奥の通りから、此方に向かう薄いピンクの人影を、ダンテとフェリチータは視界に捉える。
その人物は車を横切る際、左手を車の方に翳す。
近くの住民達が気付いた時には、燃え盛る炎は桜色の光粒子となって、消えた。
特に車の近くにいた人達は、目を丸くして固まっている。
そんな事には気も留めず彼女、ウィディーエは、少し不機嫌そうに向かっていった。
「おいダンテ、お前の頭は中身もハゲてんのか?」
「なっ!?」
「……ちったぁ後処理する奴の気も考えろ」
二人の元に着くと、開口一番に吐く。
言い終わり、すぐ溜息をついたウィディーエ。
だがダンテへの不満は、彼女のみで収まらず。
「姫の言う通りだぜ! やることが派手すぎんだよ!」
真っ先に吹っ飛ばされたリベルタもやはり不満だったようで、続いて不満を吐く。
が、当の本人は全く気にせず。
「そりゃあ、ハゲだけに……ダーンテな!」
勿論誰一人笑わず、沈黙が起きた。
「じゃ、行こうぜ」
埒があかないので、リベルタが間を切り、それを合図に黒の集団は帰路につく。
その姿を、初めてこの島に来たであろう男たちが驚いていた。
「姉さん、今日は何してたの?」
「ん? あぁ……シエスタ」
朝から見かけなかったのか、姉の様子が気になったフェリチータはウィディーエに聞いた。
だが当の本人はあっけらかんと答える。
「……もしかして、朝から?」
「いや? 朝はただ単に場所探し。まぁ今日も屋根の上だがな」
「姉さん……」
堂々とした仕事してない宣言に、さすがの義妹も苦笑いを浮かべていた。
*