第二章「ランク戦」
第二十話
段々と自動車の音やら電車の音やら、人のざわめきが大きく聞こえてくる。
「……おお!!」
ふっと意識が飛ぶ感覚があった刹那、目を開けるとそこにはビルの立ち並んだ景色が広がった。
チーム戦の時は森林で静かだったけど、この戦場は車や電車もしっかりと再現されていて、景色に動きがある。
急に外に出たような感覚が不思議でちょっと胸が高鳴るが、
「っていやいや、浮かれてる場合じゃないだろ。」
置かれた状況を思い出し、ここはどこなのか辺りを確かめる。
死守すべきリボンは、首に巻かれていてちょっと苦しい。
「うわっ」
すると、信号が変わったのかカッコウの鳴き声と共に人が行き交い始め、押し寄せる波に流されそうになった。
仮想空間とはいえ……人間もいるなんてめっちゃリアルだな。
と思いつつさっと道端まで抜け出し一旦落ち着くと、
「!?」
よくよく見てみると人の顔がのっぺらぼうだ。
人間の形だし人のざわめきも聞こえるのに、顔が無いのはちょっと怖い。
「っていやいや、そんなことに惑わされてる場合じゃねぇんだって。」
実に奇妙な光景だが、持ち直して上やら端やら人が居なそうな所へも目を向ける。
…………今のところ戦闘しているような気配は無いな。
ざわめきは聞こえるが、こんな所で戦闘している人もいないようだ。
転送位置は、どうやらラッキーだったみたいだな。
ひとまずほっと胸を撫で下ろす。
それから腕の装置を確認した。
横のスイッチを起動させるとパッと現時点の生存数と制限時間が出てきた。
『151/187人 タイ厶/00:45:37』
「うわ……もう40人位脱落してんのか」
今も尚151から数字が減っていく様子にどこかで戦闘が起きてる事を悟り、ゴクリと唾を飲み込む。
横にスライドさせると今度は追跡モードの画面が現れる。
……近くにはいないっぽいな。
赤い点が30個ある画面…ちょっと怖いが幸いな事にそれほど近い距離に点はないし、かと言って俺のいる場所に向かうような点も無い。
本当にラッキーな位置に転送したな。
地図をさらに細かく確認していると、一部赤い点がはちゃめちゃに密集している箇所があった。
恐らくこの辺りを中心に戦闘が起きているんだろう。
「……ここにはぜっっったい近づかねぇ。」
俺はそうかたく心に誓った。
画面から顔を上げ改めて周りを注意深く見れば、俺の立つこの位置は向かいの建物から見た時にばっちりばれてしまうことに気づき、慌てて比較的安全そうな背後のビルの中でしばらく身を隠すことを決めた。
念の為警戒しつつ中に足を踏み入れると、外の賑やかな感じとは打って変わって人はおらず、しんと静まり返っていた。
しかも、たまに空いている窓から外の音が聞こえてくるのが、めっちゃリアル。
正面に置かれた受付も細かな所までしっかりと作り込まれており、デスクにはパソコンや書類の山など色々と置かれている。
まあ、書類にもちゃんと何か書いてあるのかなとちょっとワクワクしながら覗いて見たら、流石にただのアルファベットの羅列ではあったのだが。
それでも凄く生活感がある為、いつか本当にふらっと一般人が現れるかもしれないという心地がして、何となく忍び足になってしまう。
ガタタッ!!
「……ん?」
気のせいかと思いたかったが、なんか微かに音がした気がする。
恐る恐る首を巡らすと、その方向には動いていないエレベーターがそびえている。
しかし確実にそっちの方から聞こえた。
上に誰かいる……?
相手の位置が確認出来るという情報に頭が引っ張られがちだが、実際は近くに上位30人未満の人達がいる可能性は大いに有り得る。
「ここはダメだ。外に出よう。」
と、怯えながらふとマップを確認すれば、悲惨なことに赤い点も一つこちらへ向かっていた。
「お、終わった……」
俺の今いるエントランスは受付しか置いておらず、バッチリ隠れられそうな所が一つも無いのだ。
ここに居たら入ってきた人と確実に鉢合わせてしまう。
満を持して上に行くか、鉢合わせ覚悟で外に出るか。
迷っている暇は無い。
「……隠れつつ上に行くか。」
俺はとにかくこの赤い点が恐くて仕方ないので、とりあえず何処か隠れられながら上がれる場所は無いかと辺りをキョロキョロしてみれば、煌々と光ってる非常口のマークと共に非常階段の扉が目に入ってきた。
「これだ!」
ここからならバレずに上の階まで行ける……!
俺は、最適解を見つけた事に安堵しつつ、急ぎ足で扉を開けた。
相変わらずの忍足で出来るだけ駆け上がる。
思ったより全然静かな階段に、もしかしたら聞き間違えだったのかもしれないと思い始めた。
しかし、嫌な事とは、忘れかけた時に起きるものだ。
『──〜…──〜!────……』
「げ。」
悠々と非常階段で4階に上がったところで、小さく声が聞こえ始めたのだ。
時折開いている窓からただ単に外のざわめきが聞こえているのか、それともやっぱりこのビルに人がいるのか。
慌てて位置情報を確認するが、生憎と赤い点は近づいているがこのビルにはまだ到着していないようだ。
声の大きさからこの階にいる様子でも無い為、俺は非常階段からオフィス内へと続いている扉に静かに耳を当てた。
しかし、耳をそばだてればある程度位置が分かるかと思ったが、声は変わらず聞こえるのに扉が分厚いのか何を話しているのかいまいちよく分からない。
……いっそ最上階まで行くか。
俺は再び、逃げるように階段を登る。
下手に慌てて外に出て、もし窓から丸見えだったりしたら終わるし、かと言って確認しにこの階へ降り立つのも危険すぎる。
いっそこのまま屋上まで行って、初日の任務の時みたいに場所を探して隠れていた方が生き残れそうだ。
そう決心して一歩踏み出したその時、
ドンッッ!!
扉の向こうから鈍い音が聞こえてきた。
驚いて振り返ると、衝撃で鍵が外れたのか扉が少しずつ開いていく。
や、やばっ……
動き出した扉に心の中で止まれ止まれと祈りながら、その光景に何も出来ず立ち尽くしていると、
……………………
………………………………
………………………………………ゴロ。
「えっ…」
自分がいる事がバレてしまうと焦ったのも、一瞬の事だった。
隙間からコロコロと転がり現れた物体。
音もなくぺたりと俺の数歩先で留まった。
俺は直ぐにそれが何なのかを、認識出来なかった。
「……あ、あああ…」
しかし、
それを誰かのちぎれた腕だと解ってしまった時、
俺の全身を、何かおぞましいものが駆け巡った。
まるで呼吸の仕方を忘れてしまったかのように空気は吸いづらく、突然自制の効かなくなった全身は不自然にカタカタと震え出した。
脳がこれ以上を理解してはいけないと、警告し始める。
知ってしまったら今までの俺は俺で無くなってしまいそうで、やめておけとどこかで自分のような何かが訴えている。
でも、扉の向こうで起こっていた事がなんなのか。
知らなくてはならないと。
俺の使命は…
俺の心が…
「────生かしたまま殺り続けたら、お前どうなっちまうんだろうな?」
隔たりの先で誰かの声が聞こえ、徐々に開いていった扉の向こう、
飛び込んできたのは、ひと目で察せる程卑劣な惨状だった。
──────ドクンッ
気づけば俺は、目を背けたかったはずの現実へ、飛び込んでしまっていた。
段々と自動車の音やら電車の音やら、人のざわめきが大きく聞こえてくる。
「……おお!!」
ふっと意識が飛ぶ感覚があった刹那、目を開けるとそこにはビルの立ち並んだ景色が広がった。
チーム戦の時は森林で静かだったけど、この戦場は車や電車もしっかりと再現されていて、景色に動きがある。
急に外に出たような感覚が不思議でちょっと胸が高鳴るが、
「っていやいや、浮かれてる場合じゃないだろ。」
置かれた状況を思い出し、ここはどこなのか辺りを確かめる。
死守すべきリボンは、首に巻かれていてちょっと苦しい。
「うわっ」
すると、信号が変わったのかカッコウの鳴き声と共に人が行き交い始め、押し寄せる波に流されそうになった。
仮想空間とはいえ……人間もいるなんてめっちゃリアルだな。
と思いつつさっと道端まで抜け出し一旦落ち着くと、
「!?」
よくよく見てみると人の顔がのっぺらぼうだ。
人間の形だし人のざわめきも聞こえるのに、顔が無いのはちょっと怖い。
「っていやいや、そんなことに惑わされてる場合じゃねぇんだって。」
実に奇妙な光景だが、持ち直して上やら端やら人が居なそうな所へも目を向ける。
…………今のところ戦闘しているような気配は無いな。
ざわめきは聞こえるが、こんな所で戦闘している人もいないようだ。
転送位置は、どうやらラッキーだったみたいだな。
ひとまずほっと胸を撫で下ろす。
それから腕の装置を確認した。
横のスイッチを起動させるとパッと現時点の生存数と制限時間が出てきた。
『151/187人 タイ厶/00:45:37』
「うわ……もう40人位脱落してんのか」
今も尚151から数字が減っていく様子にどこかで戦闘が起きてる事を悟り、ゴクリと唾を飲み込む。
横にスライドさせると今度は追跡モードの画面が現れる。
……近くにはいないっぽいな。
赤い点が30個ある画面…ちょっと怖いが幸いな事にそれほど近い距離に点はないし、かと言って俺のいる場所に向かうような点も無い。
本当にラッキーな位置に転送したな。
地図をさらに細かく確認していると、一部赤い点がはちゃめちゃに密集している箇所があった。
恐らくこの辺りを中心に戦闘が起きているんだろう。
「……ここにはぜっっったい近づかねぇ。」
俺はそうかたく心に誓った。
画面から顔を上げ改めて周りを注意深く見れば、俺の立つこの位置は向かいの建物から見た時にばっちりばれてしまうことに気づき、慌てて比較的安全そうな背後のビルの中でしばらく身を隠すことを決めた。
念の為警戒しつつ中に足を踏み入れると、外の賑やかな感じとは打って変わって人はおらず、しんと静まり返っていた。
しかも、たまに空いている窓から外の音が聞こえてくるのが、めっちゃリアル。
正面に置かれた受付も細かな所までしっかりと作り込まれており、デスクにはパソコンや書類の山など色々と置かれている。
まあ、書類にもちゃんと何か書いてあるのかなとちょっとワクワクしながら覗いて見たら、流石にただのアルファベットの羅列ではあったのだが。
それでも凄く生活感がある為、いつか本当にふらっと一般人が現れるかもしれないという心地がして、何となく忍び足になってしまう。
ガタタッ!!
「……ん?」
気のせいかと思いたかったが、なんか微かに音がした気がする。
恐る恐る首を巡らすと、その方向には動いていないエレベーターがそびえている。
しかし確実にそっちの方から聞こえた。
上に誰かいる……?
相手の位置が確認出来るという情報に頭が引っ張られがちだが、実際は近くに上位30人未満の人達がいる可能性は大いに有り得る。
「ここはダメだ。外に出よう。」
と、怯えながらふとマップを確認すれば、悲惨なことに赤い点も一つこちらへ向かっていた。
「お、終わった……」
俺の今いるエントランスは受付しか置いておらず、バッチリ隠れられそうな所が一つも無いのだ。
ここに居たら入ってきた人と確実に鉢合わせてしまう。
満を持して上に行くか、鉢合わせ覚悟で外に出るか。
迷っている暇は無い。
「……隠れつつ上に行くか。」
俺はとにかくこの赤い点が恐くて仕方ないので、とりあえず何処か隠れられながら上がれる場所は無いかと辺りをキョロキョロしてみれば、煌々と光ってる非常口のマークと共に非常階段の扉が目に入ってきた。
「これだ!」
ここからならバレずに上の階まで行ける……!
俺は、最適解を見つけた事に安堵しつつ、急ぎ足で扉を開けた。
相変わらずの忍足で出来るだけ駆け上がる。
思ったより全然静かな階段に、もしかしたら聞き間違えだったのかもしれないと思い始めた。
しかし、嫌な事とは、忘れかけた時に起きるものだ。
『──〜…──〜!────……』
「げ。」
悠々と非常階段で4階に上がったところで、小さく声が聞こえ始めたのだ。
時折開いている窓からただ単に外のざわめきが聞こえているのか、それともやっぱりこのビルに人がいるのか。
慌てて位置情報を確認するが、生憎と赤い点は近づいているがこのビルにはまだ到着していないようだ。
声の大きさからこの階にいる様子でも無い為、俺は非常階段からオフィス内へと続いている扉に静かに耳を当てた。
しかし、耳をそばだてればある程度位置が分かるかと思ったが、声は変わらず聞こえるのに扉が分厚いのか何を話しているのかいまいちよく分からない。
……いっそ最上階まで行くか。
俺は再び、逃げるように階段を登る。
下手に慌てて外に出て、もし窓から丸見えだったりしたら終わるし、かと言って確認しにこの階へ降り立つのも危険すぎる。
いっそこのまま屋上まで行って、初日の任務の時みたいに場所を探して隠れていた方が生き残れそうだ。
そう決心して一歩踏み出したその時、
ドンッッ!!
扉の向こうから鈍い音が聞こえてきた。
驚いて振り返ると、衝撃で鍵が外れたのか扉が少しずつ開いていく。
や、やばっ……
動き出した扉に心の中で止まれ止まれと祈りながら、その光景に何も出来ず立ち尽くしていると、
……………………
………………………………
………………………………………ゴロ。
「えっ…」
自分がいる事がバレてしまうと焦ったのも、一瞬の事だった。
隙間からコロコロと転がり現れた物体。
音もなくぺたりと俺の数歩先で留まった。
俺は直ぐにそれが何なのかを、認識出来なかった。
「……あ、あああ…」
しかし、
それを誰かのちぎれた腕だと解ってしまった時、
俺の全身を、何かおぞましいものが駆け巡った。
まるで呼吸の仕方を忘れてしまったかのように空気は吸いづらく、突然自制の効かなくなった全身は不自然にカタカタと震え出した。
脳がこれ以上を理解してはいけないと、警告し始める。
知ってしまったら今までの俺は俺で無くなってしまいそうで、やめておけとどこかで自分のような何かが訴えている。
でも、扉の向こうで起こっていた事がなんなのか。
知らなくてはならないと。
俺の使命は…
俺の心が…
「────生かしたまま殺り続けたら、お前どうなっちまうんだろうな?」
隔たりの先で誰かの声が聞こえ、徐々に開いていった扉の向こう、
飛び込んできたのは、ひと目で察せる程卑劣な惨状だった。
──────ドクンッ
気づけば俺は、目を背けたかったはずの現実へ、飛び込んでしまっていた。
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