第二章「ランク戦」
第十九話
「はぁーーーーーーーーー……」
エントランスのソファに座り、俺は独り長いため息を吐いた。
まさか、まさか自分がこんな弱いなんて思ってなかった。
勝ち抜き戦は愚か、可能性のあったチーム戦でさえ開始後即殺られてなんの得点にもならないなんて。
現順位:178位と浮かぶ画面にため息が止まらない。
そもそもこのランク戦に参加してる人数が200人くらいしかいないらしいから、下から数えた方が明らかに早い。
初戦から色に無情にも即やられた俺は、案の定そっからも負け続けた。
チーム戦においては、試合開始後直ぐになんかめっちゃ強い人に出くわして何をする暇もなく戦線離脱になった。
大体、今まで呑気にフツーに生きてきた俺みたいな凡人に、こんないきなり戦えって言ったって無理な話なんだ。
思い返せば返す程、絶望的な状況に俺は顔を覆う。
「はぁ。俺って弱いんだな……」
そんな自分の弱さに打ちひしがれていると、
「おいお前!」
いきなり頭上から怒気のこもった声が降りかかって、はっと顔を上げる。
自分のすぐ前には何やら治安の悪そうな男が2,3人立っていた。
げ。こいつら……。
俺は嫌な予感がして顔をひきつらせた。
目の前に立つこの人達は、ランク戦の最初から割と目立っていた集団だった。多分歳は俺と同じくらいなんだろうが、 鋭い目つきに尖った髪型……この柄の悪さは所謂"ヤンキー"というやつだ。
なるべく関わりたくなかったのだが、近くに他に人が居ない事を確認すれば、嫌でも自分が対象になっていることが把握出来てしまった。
「な、なんすか?」
なるべく平静を装って対応を試みるが、ヤンキー達はこちらを見ながらニヤニヤと笑っている。
「お前、8番隊の新入りなんだろ?」
「はあ。そうですけど。」
訝しげにそう応えれば、彼らは一度顔を見合わせ、何がそんなに面白いのかニヤニヤとしながら俺の方へ振り返った。
「お前のポイント、寄越せ。」
「……は?」
寄越せ……ってまさか譲渡しろって事か?
「…………」
思わずポカンと口を開けたまま、イカつい顔をまじまじと見つめてしまった。
それを不快に思ったのか、次第にヤンキー達はイラついた様子で顔を顰め、今度は怒気が降ってきた。
「おい黙ってねぇで何とか言えや!出来ねぇってんなら最終戦で直接もぎとってやってもいいんだぜ。」
俺は目を見張った。
………もしかしてこいら、俺が弱いって事を知ってるのか?
でも、それを踏まえた上で考えてみて、益々意味が分から無くなってきた俺は、聞き返す。
「いや、お前らに渡してやってもいいけど……残念な事に譲渡出来るほどのポイント持ってねぇんだよ、俺。」
そう言って獲得ポイントの表示された腕の装置を素直に差し出せば、ヤンキー達は「あ゛?」と威勢を効かせながら俺の腕を覗き込んだ。
「「…………………」」
『────まもなく最終戦、生き残り戦を始めます。各ブースへお集まりください。』
激しい威勢を効かせていたヤンキー達も驚きの沈黙の最中、最終戦の始まるアナウンスが流れた。
「…………っんだこのしょぼいポイントはぁ!?お前本当に8番隊かよ?やる気あんのか?ああ゛?!」
急に大声で罵倒されて俺もちょっと凹んだ。
…譲渡を強いるようなやつに言われたくねぇんだけど。
「だ、だからそう言っただろ?」
沈みながらため息混じりにそう言う俺に、ヤンキー達はとうとう興味が失せてしまったようで、
「ああ、もうお前に用はねぇ……行くぞ。」
そう言って後ろの奴らにも声をかけてズカズカと歩いていってしまった。
場に取り残された俺は、やるせない気持ちになりつつもそれ以上深入りせず去っていった連中に、ほっと肩の力を抜いた。
「はぁ〜………あぶねぇ〜……」
正直馬鹿にされたのは腹立つが、変に頭が切れて「弱いのにどうやってオッドルークになったんだ」とか言われたらやばかった。
なぜなら俺は、オッドルークになる為の入隊試験なんかこれっぽっちも受けてないんだから。
……っつか、団長が勝手に俺をオッドルークにしたくせに、数日も経たずにランク戦で脱退させる事とかあんのか……?
まさか、俺がこんなに弱いと思ってなかった、とかないよな……?
「………………いやいや。」
そんな訳ない、と半笑いで俺は空中で手をパタパタさせ、雑念を振り払う仕草をした。
兎にも角にも、最終的にランクEに残りさえすればそんな懸念なんて必要なくなるんだから、要は次の生き残りゲームで最後まで生き残れば良い話だ。
よし、一生隠れながら過ごしてやるからな。
と、気合を入れるには情けなさすぎる作戦を考えながら、俺は次のブースへと向かった。
△ ▼ △ ▼
そうして辿り着いた最終戦の会場には、俺と同じ位のポイント数の人達が30人位集まっていた。
もう既に高得点の人たちが最終戦を開始しているらしく、スクリーンに映る戦場を見て集まった人達からは羨望や悲観の声が聞こえてくる。
(知逢達もまだ生き残ってんのかなぁ。)
とぼんやり思いながら、見渡す限り特に知り合いもいないのでひとり待機していると、カツカツとヒールの音を響かせながらスーツ姿の女性が会場内へ入ってきた。笑みを浮かべた口元、赤い口紅がとても良く似合ったその人は、よく言う"大人の女性"という言葉がピッタリ当てはまる。
壇上に立った彼女の存在感に、ざわざわとしていたブース内が一気にしんと静まり返った。
「グループKの皆さん、お集まり頂きありがとうございます。数分後にここから最終戦の戦場へと転送されます。それまでの間、この試験の要点を簡単に説明いたしますので、少しだけお付き合い下さいね。」
そうふわりと髪を揺らした女性は、ニコリと微笑んだ。
「貴方達のいるグループは、現段階での1番最下層グループです。
最終戦はチーム戦同様、基本的には最後まで生存できるかを競い合うゲームです。細かく説明致しますと、転送時に1人ひとつずつ配布されたリボンが、何らかの形で取られたり千切れたりすると、戦線離脱となり自動的にこちらのブースへ再度転送されてしまいます。」
女性がそう説明すると、スクリーンにわかりやすくまとめられた図解が映し出された。
「もし途中で離脱してしまっても、最終的に勝ち取ったリボンの数も大きな加点になるので、転送後は是非積極的に動いて頂く事をおすすめしますよ。
また、皆さんも知っての通り、既に上位グループから順に転送されておりますので、あなた達は他の人達より生き残れる可能性が高い点が有利になっています。
しかし残念ながら、システムの都合上皆さんの転送位置は完全なランダムなので、不運にも既に戦闘が起きてる所に転送される場合があります。……その時は頑張って乗り切ってくださいね!
尚、ポイント数の多い上位30位までの方々の位置は、皆さんの腕の装置にて追跡モードで確認ができるようになっております。どのように活用するかはあなた達次第ですので、見るも見ないもご自由にお使いください。」
笑顔を一切崩す事無く一息に女性が説明を終えると、図解が映されていたスクリーンがパッと消えた。
「……長くなりましたが最後に、今回の戦場は"高層ビル街"です。」
『転送まで後10秒』
すると、タイミング良く流れたアナウンスの音と共に会場内が真っ暗になり、女性の声だけがこだまする。
「────それでは、頑張って生き残ってくださいね。」
あまりに唐突に始まったカウントダウンに、部屋中を緊張が走った。
チーム戦の時は、上位とか下位とか関係無く一斉に転送されたが、もう既に戦いが始まっている場所に行くと想像して身震いした。
『9、8……』
いや、しっかりしろ、俺。
歯をギリと食いしばり、緊張で落ち着かない体を何とか鎮めようと試みる。
チーム戦の時は初っ端の転送位置が悪すぎて即切られて殺されたからな……この最終戦、本当に転送位置次第で即終わる可能性もあるんだ。
こんな所でブルってる場合では無い。
『5、4……』
とにかく何でもいいから最後まで生き残れれば、この絶望的状況からでも一気に上位へ食い込むことが出来る。
……それに、今回の戦場は高層ビル街。
俺の能力の良さを最大限活かせる、もはや俺の場所と言っても過言ではないぞ。
『2、1………』
俺は深呼吸をひとつした。
『転送を開始します。』
おっし、名誉挽回のチャンスだ。
────────────プツ…
「はぁーーーーーーーーー……」
エントランスのソファに座り、俺は独り長いため息を吐いた。
まさか、まさか自分がこんな弱いなんて思ってなかった。
勝ち抜き戦は愚か、可能性のあったチーム戦でさえ開始後即殺られてなんの得点にもならないなんて。
現順位:178位と浮かぶ画面にため息が止まらない。
そもそもこのランク戦に参加してる人数が200人くらいしかいないらしいから、下から数えた方が明らかに早い。
初戦から色に無情にも即やられた俺は、案の定そっからも負け続けた。
チーム戦においては、試合開始後直ぐになんかめっちゃ強い人に出くわして何をする暇もなく戦線離脱になった。
大体、今まで呑気にフツーに生きてきた俺みたいな凡人に、こんないきなり戦えって言ったって無理な話なんだ。
思い返せば返す程、絶望的な状況に俺は顔を覆う。
「はぁ。俺って弱いんだな……」
そんな自分の弱さに打ちひしがれていると、
「おいお前!」
いきなり頭上から怒気のこもった声が降りかかって、はっと顔を上げる。
自分のすぐ前には何やら治安の悪そうな男が2,3人立っていた。
げ。こいつら……。
俺は嫌な予感がして顔をひきつらせた。
目の前に立つこの人達は、ランク戦の最初から割と目立っていた集団だった。多分歳は俺と同じくらいなんだろうが、 鋭い目つきに尖った髪型……この柄の悪さは所謂"ヤンキー"というやつだ。
なるべく関わりたくなかったのだが、近くに他に人が居ない事を確認すれば、嫌でも自分が対象になっていることが把握出来てしまった。
「な、なんすか?」
なるべく平静を装って対応を試みるが、ヤンキー達はこちらを見ながらニヤニヤと笑っている。
「お前、8番隊の新入りなんだろ?」
「はあ。そうですけど。」
訝しげにそう応えれば、彼らは一度顔を見合わせ、何がそんなに面白いのかニヤニヤとしながら俺の方へ振り返った。
「お前のポイント、寄越せ。」
「……は?」
寄越せ……ってまさか譲渡しろって事か?
「…………」
思わずポカンと口を開けたまま、イカつい顔をまじまじと見つめてしまった。
それを不快に思ったのか、次第にヤンキー達はイラついた様子で顔を顰め、今度は怒気が降ってきた。
「おい黙ってねぇで何とか言えや!出来ねぇってんなら最終戦で直接もぎとってやってもいいんだぜ。」
俺は目を見張った。
………もしかしてこいら、俺が弱いって事を知ってるのか?
でも、それを踏まえた上で考えてみて、益々意味が分から無くなってきた俺は、聞き返す。
「いや、お前らに渡してやってもいいけど……残念な事に譲渡出来るほどのポイント持ってねぇんだよ、俺。」
そう言って獲得ポイントの表示された腕の装置を素直に差し出せば、ヤンキー達は「あ゛?」と威勢を効かせながら俺の腕を覗き込んだ。
「「…………………」」
『────まもなく最終戦、生き残り戦を始めます。各ブースへお集まりください。』
激しい威勢を効かせていたヤンキー達も驚きの沈黙の最中、最終戦の始まるアナウンスが流れた。
「…………っんだこのしょぼいポイントはぁ!?お前本当に8番隊かよ?やる気あんのか?ああ゛?!」
急に大声で罵倒されて俺もちょっと凹んだ。
…譲渡を強いるようなやつに言われたくねぇんだけど。
「だ、だからそう言っただろ?」
沈みながらため息混じりにそう言う俺に、ヤンキー達はとうとう興味が失せてしまったようで、
「ああ、もうお前に用はねぇ……行くぞ。」
そう言って後ろの奴らにも声をかけてズカズカと歩いていってしまった。
場に取り残された俺は、やるせない気持ちになりつつもそれ以上深入りせず去っていった連中に、ほっと肩の力を抜いた。
「はぁ〜………あぶねぇ〜……」
正直馬鹿にされたのは腹立つが、変に頭が切れて「弱いのにどうやってオッドルークになったんだ」とか言われたらやばかった。
なぜなら俺は、オッドルークになる為の入隊試験なんかこれっぽっちも受けてないんだから。
……っつか、団長が勝手に俺をオッドルークにしたくせに、数日も経たずにランク戦で脱退させる事とかあんのか……?
まさか、俺がこんなに弱いと思ってなかった、とかないよな……?
「………………いやいや。」
そんな訳ない、と半笑いで俺は空中で手をパタパタさせ、雑念を振り払う仕草をした。
兎にも角にも、最終的にランクEに残りさえすればそんな懸念なんて必要なくなるんだから、要は次の生き残りゲームで最後まで生き残れば良い話だ。
よし、一生隠れながら過ごしてやるからな。
と、気合を入れるには情けなさすぎる作戦を考えながら、俺は次のブースへと向かった。
△ ▼ △ ▼
そうして辿り着いた最終戦の会場には、俺と同じ位のポイント数の人達が30人位集まっていた。
もう既に高得点の人たちが最終戦を開始しているらしく、スクリーンに映る戦場を見て集まった人達からは羨望や悲観の声が聞こえてくる。
(知逢達もまだ生き残ってんのかなぁ。)
とぼんやり思いながら、見渡す限り特に知り合いもいないのでひとり待機していると、カツカツとヒールの音を響かせながらスーツ姿の女性が会場内へ入ってきた。笑みを浮かべた口元、赤い口紅がとても良く似合ったその人は、よく言う"大人の女性"という言葉がピッタリ当てはまる。
壇上に立った彼女の存在感に、ざわざわとしていたブース内が一気にしんと静まり返った。
「グループKの皆さん、お集まり頂きありがとうございます。数分後にここから最終戦の戦場へと転送されます。それまでの間、この試験の要点を簡単に説明いたしますので、少しだけお付き合い下さいね。」
そうふわりと髪を揺らした女性は、ニコリと微笑んだ。
「貴方達のいるグループは、現段階での1番最下層グループです。
最終戦はチーム戦同様、基本的には最後まで生存できるかを競い合うゲームです。細かく説明致しますと、転送時に1人ひとつずつ配布されたリボンが、何らかの形で取られたり千切れたりすると、戦線離脱となり自動的にこちらのブースへ再度転送されてしまいます。」
女性がそう説明すると、スクリーンにわかりやすくまとめられた図解が映し出された。
「もし途中で離脱してしまっても、最終的に勝ち取ったリボンの数も大きな加点になるので、転送後は是非積極的に動いて頂く事をおすすめしますよ。
また、皆さんも知っての通り、既に上位グループから順に転送されておりますので、あなた達は他の人達より生き残れる可能性が高い点が有利になっています。
しかし残念ながら、システムの都合上皆さんの転送位置は完全なランダムなので、不運にも既に戦闘が起きてる所に転送される場合があります。……その時は頑張って乗り切ってくださいね!
尚、ポイント数の多い上位30位までの方々の位置は、皆さんの腕の装置にて追跡モードで確認ができるようになっております。どのように活用するかはあなた達次第ですので、見るも見ないもご自由にお使いください。」
笑顔を一切崩す事無く一息に女性が説明を終えると、図解が映されていたスクリーンがパッと消えた。
「……長くなりましたが最後に、今回の戦場は"高層ビル街"です。」
『転送まで後10秒』
すると、タイミング良く流れたアナウンスの音と共に会場内が真っ暗になり、女性の声だけがこだまする。
「────それでは、頑張って生き残ってくださいね。」
あまりに唐突に始まったカウントダウンに、部屋中を緊張が走った。
チーム戦の時は、上位とか下位とか関係無く一斉に転送されたが、もう既に戦いが始まっている場所に行くと想像して身震いした。
『9、8……』
いや、しっかりしろ、俺。
歯をギリと食いしばり、緊張で落ち着かない体を何とか鎮めようと試みる。
チーム戦の時は初っ端の転送位置が悪すぎて即切られて殺されたからな……この最終戦、本当に転送位置次第で即終わる可能性もあるんだ。
こんな所でブルってる場合では無い。
『5、4……』
とにかく何でもいいから最後まで生き残れれば、この絶望的状況からでも一気に上位へ食い込むことが出来る。
……それに、今回の戦場は高層ビル街。
俺の能力の良さを最大限活かせる、もはや俺の場所と言っても過言ではないぞ。
『2、1………』
俺は深呼吸をひとつした。
『転送を開始します。』
おっし、名誉挽回のチャンスだ。
────────────プツ…