第二章「ランク戦」
第十八話
『問題は検出されませんでした。登録を完了します。』
タブレットからのアナウンスによって、無事に衣装登録が完了した。
「おおおおお!!!」
自分の体がさっきまで着てた戦闘服にそっくりそのまま変換され感動しながら振り返れば、8番隊の人達も戦闘服に変わっており、その貫禄に俺は呆気に取られた。
ランクEを取らなきゃ、脱退か……。
前に知逢に教えて貰った通り、ランク戦は3種目ある。今日まず行われるのが勝ち抜き戦。勝ち抜きと言ってもほぼ総当り戦らしく、負けた人は負けた人同士でさらに勝ち抜きを行うから、Eランクに食い込むためにも何とか中位を取りたい所だ。勝ち抜いた分ポイントが付き、ポイントの総数順位で上位帯・中位帯・下位帯へと振り分けられ、これが計3回繰り返される。
ポイント制なので下位帯の中でも勝ち抜けばポイントが貯まり、最終的な順位が上位帯にいた人達より高くなる事もあるので、諦めず挑む事が可能だ。
その後に、3人のチーム戦→生き残り戦と続いて行くが、このふたつはチームか個人かの違いがあるだけでほぼ同じ内容だ。
チーム戦はチームがランダムで組まされ、直前に10分間顔合わせの時間がある。
このふたつでは評価点がいくつかに分かれていて、個人的実力とチームでの動き方、地形を利用した能力の使い方など、細かい所で加点が付いていく。
更に、ここでは勝ち抜き戦で得たポイントを相手に譲渡する事ができるらしい。……これに関してはあんまりやる人はいないらしいが。
なので、最後まで生き残れなくても加点や譲渡等で点数が高くなることもある。
そして恐らく、俺は勝ち抜き戦や生き残りゲームで上位を目指すのは難しいだろうという知逢大先生の判断で、今回大量得点を狙うのはチーム戦だ。
総合ポイントの順位が100位以内に食い込めれば、晴れてランクE。
何とかしても勝ち取らねば……!!
と、俺がかつてない程燃えていると、
「理紅ー、登録できたんだね!はいこれ、今日のランク戦の対戦表!」
駆け寄ってきた知逢が、そう言って腕時計のようなものを渡してきた。
「対戦表?」
「うん!腕出して〜」
と、言われるがまま腕を差し出すと、それを手首に装着された。
すると、
「?!」
腕時計から画面みたいなのが浮かび上がってきた。
「そこにどの訓練ブースに入ればいいか書かれてるでしょ、今日はそれみて行動するんだよ。」
確かによく見れば、壱条理紅[8]という文字があり、横に続いて『勝ち抜き戦:ブース6』と大きく書かれている。
凝視していたら、浮き出た画面の映る俺の視界を、知逢の頭がにゅっと塞いできた。
「あ〜ブース6かぁ……俺とは違うとこだ、ざーんねん。」
そう言われて探してみると、下に続く招集一覧の中には知逢の名前は見つからず、ざっと見た感じ20人くらいいる中で知逢や香深のような見知った人がいないとなると俺も幾分か不安になってきた。
「あ、左にスライドすると初戦の相手出てくるよ。」
知逢のジェスチャーを受け、携帯の要領で指をスライドさせると、触った感触は全くないが画面が切り替わった。すげぇ。
切り替わった画面から、トーナメント表が浮かび上がる。
自分の名前の部分が少し大きくなっており、初戦の相手が確認できた。
それを覗き見た知逢が突如「え!?」と驚いた声を上げた。大きな声に俺も幾分驚き知逢を見ると、彼は大きな目をさらに大きくして画面に釘付けになっている。
「嘘!?初戦から色(シキ)と対戦じゃん!!」
知逢に言われ再び画面に目を戻すと、
対戦相手には『月待 色[8]』と書かれている。
「え゛っ」
思わず俺も濁った声がでた。
月待 色(ツキマチ シキ)さんは8番隊の隊員で、真っ白い肌にまつ毛まで白い白髪、全体的に白いので最初見た時は妖精かと一瞬疑ったくらい、人外みのある見た目をしている。まだほぼ話したことはないが、よく同室である知逢の話題に出てくるので名前だけはよく知っている。
だが、知逢の話の中では結構ユニークな感じがするが、実際はどういう人なのかは全然分からない。
今日は朝早く出発してしまったようで、近くにその姿は見当たらなかった。
まさか初戦から同じ隊の人と当たるとは……。
浮かび上がる画面を眺めていると、ぽんと肩を叩かれた。
「ま、次があるさ。」
他でもない知逢大先生から同情の視線をもらい、あ、俺負けるんだなと察せてしまった。
そりゃそうだ、8番隊で1番ランクが低いらしい知逢にもあんなにボコボコにされたんだからな。
しかし俺は、すぐその考えを断ち切るためぶんぶんと首を振った。
「ま、負けねぇわ。」
そうたどたどしくも気合いを入れ直していたら、各ブースへの招集アナウンスが流れた。
知逢は、半ば哀れみの視線を向けながら無言で再び肩を2度ぽんぽんと叩くと、「そいじゃ頑張れ!また後で〜」と笑顔で去って行った。
緊張を逃がすため、ふぅと息を吐く。
知逢以外の人と対戦した事ないから、色が一体どんな能力を使うかも分かんない状態だが、とにかくランクEに残れるようにするには勝ち抜くしかない。
「……知逢には悪いが、勝っちゃうからな、俺。」
そう一人奮起しながら、俺はブース6へと足を踏み出した。
目的の場所へ着くと、すぐ中へ通された。
入ると既に前の試合が始まっており、ガラスの向こうでは戦闘が行われていた。
ゴクリ。と喉がなる。
ブースの中はさらに3つに別れていて、案内役の人にこちらです、と促され言われるがままひとつの部屋に入室した。
部屋にはまだ誰もおらず、しんとしていた。
ガラスに見えていた部分は中から見るとただの壁になっており、何も見えない。
「なんか、や、やべぇ……」
どこからどう見られてるかも分からないのに、人の気配は無いこの無機質な空間に、カチコチになっているとガチャリと扉が開いた。
すると、この空間に負けないくらい真っ白な人が入ってきた。
対戦相手の色だ。
彼は、何も言わず黙々と反対側へ立った。
俺はまるでお人形のような彼をじっと観察する。
ああ、なんでさっき知逢に色の異能力について聞いておかなかったんだろうな、俺。
『それでは、試合を始めてください。』
────ビィィーーー─!
無情にも室内にアナウンスの声が響き、試合開始のブザーが鳴った。
まずは相手の能力を知ろう。そう思って俺はしばらく様子見の為静観を決めていたが、開始の合図が鳴っても全然色は動き出さなかった。
……向こうもこちらの様子を伺っているのか?
「成程、流石に飛び込んでくる馬鹿ではないか。」
そっと落ち着いた声が聞こえた。
すると、今まで動かなかった色が突然こちらに向かって走ってきた。
「は!?」
慌てて俺は、飛び上がる。
──しかし、
「えっなんで?!」
全く能力が使えない!?!
ちょこっと飛び上がるだけで普段のような早い跳躍が出来ない。
なんでなんでなんで
そうこうしてる間に俺の視界がひっくり返った。
「ぐぁっ?!?!」
気つけば、色の深紅の目が俺を見下ろしていた。
倒された俺の首にはがっしりと手がかっている。
……こ、殺される。
純粋にそう思った。
赤い目がこちらを凝視している。
ああ、何も為す術なく終わってしまう。
この時の俺は、石のように硬く硬直していた。
心では動かなきゃと思うのに、体が全く言う事を聞いてくれなかった。
何がなんだかも分からずただ組み敷かれ色を見上げる俺を、2つの真っ赤な目がしっかりと捕捉している。
「……弱いな、あんた。」
──────ビィィーーー!!
呟きと共に虚しく響き渡ったブザーが、試合終了を告げた。
俺は、呆気なく負けた。
『問題は検出されませんでした。登録を完了します。』
タブレットからのアナウンスによって、無事に衣装登録が完了した。
「おおおおお!!!」
自分の体がさっきまで着てた戦闘服にそっくりそのまま変換され感動しながら振り返れば、8番隊の人達も戦闘服に変わっており、その貫禄に俺は呆気に取られた。
ランクEを取らなきゃ、脱退か……。
前に知逢に教えて貰った通り、ランク戦は3種目ある。今日まず行われるのが勝ち抜き戦。勝ち抜きと言ってもほぼ総当り戦らしく、負けた人は負けた人同士でさらに勝ち抜きを行うから、Eランクに食い込むためにも何とか中位を取りたい所だ。勝ち抜いた分ポイントが付き、ポイントの総数順位で上位帯・中位帯・下位帯へと振り分けられ、これが計3回繰り返される。
ポイント制なので下位帯の中でも勝ち抜けばポイントが貯まり、最終的な順位が上位帯にいた人達より高くなる事もあるので、諦めず挑む事が可能だ。
その後に、3人のチーム戦→生き残り戦と続いて行くが、このふたつはチームか個人かの違いがあるだけでほぼ同じ内容だ。
チーム戦はチームがランダムで組まされ、直前に10分間顔合わせの時間がある。
このふたつでは評価点がいくつかに分かれていて、個人的実力とチームでの動き方、地形を利用した能力の使い方など、細かい所で加点が付いていく。
更に、ここでは勝ち抜き戦で得たポイントを相手に譲渡する事ができるらしい。……これに関してはあんまりやる人はいないらしいが。
なので、最後まで生き残れなくても加点や譲渡等で点数が高くなることもある。
そして恐らく、俺は勝ち抜き戦や生き残りゲームで上位を目指すのは難しいだろうという知逢大先生の判断で、今回大量得点を狙うのはチーム戦だ。
総合ポイントの順位が100位以内に食い込めれば、晴れてランクE。
何とかしても勝ち取らねば……!!
と、俺がかつてない程燃えていると、
「理紅ー、登録できたんだね!はいこれ、今日のランク戦の対戦表!」
駆け寄ってきた知逢が、そう言って腕時計のようなものを渡してきた。
「対戦表?」
「うん!腕出して〜」
と、言われるがまま腕を差し出すと、それを手首に装着された。
すると、
「?!」
腕時計から画面みたいなのが浮かび上がってきた。
「そこにどの訓練ブースに入ればいいか書かれてるでしょ、今日はそれみて行動するんだよ。」
確かによく見れば、壱条理紅[8]という文字があり、横に続いて『勝ち抜き戦:ブース6』と大きく書かれている。
凝視していたら、浮き出た画面の映る俺の視界を、知逢の頭がにゅっと塞いできた。
「あ〜ブース6かぁ……俺とは違うとこだ、ざーんねん。」
そう言われて探してみると、下に続く招集一覧の中には知逢の名前は見つからず、ざっと見た感じ20人くらいいる中で知逢や香深のような見知った人がいないとなると俺も幾分か不安になってきた。
「あ、左にスライドすると初戦の相手出てくるよ。」
知逢のジェスチャーを受け、携帯の要領で指をスライドさせると、触った感触は全くないが画面が切り替わった。すげぇ。
切り替わった画面から、トーナメント表が浮かび上がる。
自分の名前の部分が少し大きくなっており、初戦の相手が確認できた。
それを覗き見た知逢が突如「え!?」と驚いた声を上げた。大きな声に俺も幾分驚き知逢を見ると、彼は大きな目をさらに大きくして画面に釘付けになっている。
「嘘!?初戦から色(シキ)と対戦じゃん!!」
知逢に言われ再び画面に目を戻すと、
対戦相手には『月待 色[8]』と書かれている。
「え゛っ」
思わず俺も濁った声がでた。
月待 色(ツキマチ シキ)さんは8番隊の隊員で、真っ白い肌にまつ毛まで白い白髪、全体的に白いので最初見た時は妖精かと一瞬疑ったくらい、人外みのある見た目をしている。まだほぼ話したことはないが、よく同室である知逢の話題に出てくるので名前だけはよく知っている。
だが、知逢の話の中では結構ユニークな感じがするが、実際はどういう人なのかは全然分からない。
今日は朝早く出発してしまったようで、近くにその姿は見当たらなかった。
まさか初戦から同じ隊の人と当たるとは……。
浮かび上がる画面を眺めていると、ぽんと肩を叩かれた。
「ま、次があるさ。」
他でもない知逢大先生から同情の視線をもらい、あ、俺負けるんだなと察せてしまった。
そりゃそうだ、8番隊で1番ランクが低いらしい知逢にもあんなにボコボコにされたんだからな。
しかし俺は、すぐその考えを断ち切るためぶんぶんと首を振った。
「ま、負けねぇわ。」
そうたどたどしくも気合いを入れ直していたら、各ブースへの招集アナウンスが流れた。
知逢は、半ば哀れみの視線を向けながら無言で再び肩を2度ぽんぽんと叩くと、「そいじゃ頑張れ!また後で〜」と笑顔で去って行った。
緊張を逃がすため、ふぅと息を吐く。
知逢以外の人と対戦した事ないから、色が一体どんな能力を使うかも分かんない状態だが、とにかくランクEに残れるようにするには勝ち抜くしかない。
「……知逢には悪いが、勝っちゃうからな、俺。」
そう一人奮起しながら、俺はブース6へと足を踏み出した。
目的の場所へ着くと、すぐ中へ通された。
入ると既に前の試合が始まっており、ガラスの向こうでは戦闘が行われていた。
ゴクリ。と喉がなる。
ブースの中はさらに3つに別れていて、案内役の人にこちらです、と促され言われるがままひとつの部屋に入室した。
部屋にはまだ誰もおらず、しんとしていた。
ガラスに見えていた部分は中から見るとただの壁になっており、何も見えない。
「なんか、や、やべぇ……」
どこからどう見られてるかも分からないのに、人の気配は無いこの無機質な空間に、カチコチになっているとガチャリと扉が開いた。
すると、この空間に負けないくらい真っ白な人が入ってきた。
対戦相手の色だ。
彼は、何も言わず黙々と反対側へ立った。
俺はまるでお人形のような彼をじっと観察する。
ああ、なんでさっき知逢に色の異能力について聞いておかなかったんだろうな、俺。
『それでは、試合を始めてください。』
────ビィィーーー─!
無情にも室内にアナウンスの声が響き、試合開始のブザーが鳴った。
まずは相手の能力を知ろう。そう思って俺はしばらく様子見の為静観を決めていたが、開始の合図が鳴っても全然色は動き出さなかった。
……向こうもこちらの様子を伺っているのか?
「成程、流石に飛び込んでくる馬鹿ではないか。」
そっと落ち着いた声が聞こえた。
すると、今まで動かなかった色が突然こちらに向かって走ってきた。
「は!?」
慌てて俺は、飛び上がる。
──しかし、
「えっなんで?!」
全く能力が使えない!?!
ちょこっと飛び上がるだけで普段のような早い跳躍が出来ない。
なんでなんでなんで
そうこうしてる間に俺の視界がひっくり返った。
「ぐぁっ?!?!」
気つけば、色の深紅の目が俺を見下ろしていた。
倒された俺の首にはがっしりと手がかっている。
……こ、殺される。
純粋にそう思った。
赤い目がこちらを凝視している。
ああ、何も為す術なく終わってしまう。
この時の俺は、石のように硬く硬直していた。
心では動かなきゃと思うのに、体が全く言う事を聞いてくれなかった。
何がなんだかも分からずただ組み敷かれ色を見上げる俺を、2つの真っ赤な目がしっかりと捕捉している。
「……弱いな、あんた。」
──────ビィィーーー!!
呟きと共に虚しく響き渡ったブザーが、試合終了を告げた。
俺は、呆気なく負けた。