異変

「夜見さん……夜見さんが一人で来たということは夜見さんが来た方にはもう……」

「……寅丸の部屋にも行ったけど……誰もいなかった……」

「実は先に逃げた……なんてことはないね。自分優先で動くような奴じゃないから……」

「とにかく今は人間達を避難させないと……」

「その必要はありませんよ。既に多くの人間が私達に捕まっている筈ですから……」

「!?寅丸!!」

文と椛を気絶させて撒いた後、そう話しながら駆ける夜見達の前に明らかに今までとは雰囲気が違う寅丸が不敵な笑みを浮かべながら、そう言いながら現れる。

「それに『ジャック』による支配は絶大です。例え、あなた達がこの国から出れたとしても……遅かれ早かれ、あなた達もこちら側に来る運命さだめなのですよ……」

「……自分達が何をしているのか、わかってるのかい?これは……今まで助け合ってきた者達に対する裏切りだよ……」

「……それが何だと言うんです?そもそも『人間と妖怪が手を取り合う世界』だなんて……叶うことのない夢物語に過ぎないんですよ……」

「……私達が知っている寅丸はそんなことは言わない……寅丸はいつも人間が好きだと言っていた………人間のことを第一に考え、『人間と妖怪が手を取り合う世界』を創ろうといつも頑張っていた……寅丸……本当はこんなこと、したくないんだろ?」

「?夜見さん……?」

「ははは!!悟り妖怪の真似事ですか!?なかなか上手いじゃないですか!!ですが、残念ながらそれは見当違……い……?」

そう言う寅丸は何故か涙を流していた。

「あははは……おかしいですね……悲しくなんて……ないのに……ッ!?私は……妖怪と人間が……手を取り合う……世界を……」

「!?寅丸!!」

「正気に戻ったのですか!?」

「あぁ……私は……なんてことを……人間だけでなく……あなた達にも裏切るような真似をして……私は…これからどうしたら……」

「寅丸!!」

「(ビクッ!!)よ、夜見さん……」

「……おかえり……寅丸……」

正気に戻った寅丸に対し、夜見は優しい笑顔でそう言う。

「!寅丸星……ただいま戻りました……」

「まったく……いつも、ボクに威張ってるくせに……帰ってくるのが遅いんだよ……」

「はい……すいません……」

「『ジャック』による支配とやらは完全に解けたのですか?」

「いえ。どうやら一時的に解けただけのようです……また何時、あのような状態になってしまうか……」

「なるほど……今回の騒動の元凶である『ジャック』というのはどうやら催眠系統の妖術かサイキックのようですね……止めるには術者を倒すしかありません……」

「あぁー、いたいた!!おぉーい!!まだ『ジャック』にやられてない奴がこっちにいたぞぉーーーっ!!」

寅丸の話を聞いて、一輪が真剣な表情でそう考察するなか、ウェーブがかかった緑青のショートボブに緑の瞳、茶色に薄く斑点模様が入った大きな垂れ耳と尻尾を持つ少女、『ジャック』に支配された山びこ妖怪、幽谷かそだに響子きょうこがその場に現れ、大声でそう叫んだ。
3/4ページ
スキ