平和な日常

修行場・・・

「なぁ。ナズーリン……まだ五分経たないのか……?」

「後もう少しだから、頑張れぇ~~~♪」

自分の身体から分離させた頭を浮かせた状態でそう尋ねる夜見に対し、ネズミの耳と尻尾が生えた灰色の髪の少女、ナズーリンは笑顔でそう言う。

「それ……もう二十回も聞いてるんだけど……おまえ、本当にちゃんと時間を計ってる?」

「おやおや?歳上のボクにそんな口、聞いちゃって良いのかな?こっちは別に時間を引き延ばしたって良いんだよ?」

「なっ!?鬼か!?おまえ!!」

「鬼じゃなくて、ネズミです♪はい♪五分経過したよぉ~~~♪」

「うぅ……」

「まったく、帰りが遅いと思ったら、まだ修行してたんですか……」

「げっ。寅丸……」

夜見とナズーリンがそう話をしているなか、虎の体色のような黒と金が混ざった色の髪を持ち、頭の上に花を模した飾りを着けた妖怪の女性、寅丸とらまるしょうがそう言いながら現れる。

「寅丸。どうしてここに?」

「どうしてって……予定していた修行の時間より三十分経っても帰ってこないから、様子を見に来たんですよ……」

未だに首を浮かせた状態のまま、そう尋ねる夜見に対し、寅丸は呆れながらもそう答える。

「三十分!?そんなに経ってたのか!?ナズーリン!!やっぱり時間を計ってなかったんじゃないか!!」

「さ、さぁーて、何のことかなぁ~~~?」

「さてと、ナズーリン?」

「はいはい。何でございましょう?寅丸さん。」

「……後で私の修行にも付き合ってもらいますよ。あなたが夜見さんにだけ修行させて、サボっていたのはしっかりと見てましたから………」

「あぁ……やっぱりこうなるのか……」

「流石に今日の手合わせはあまり手加減できそうにありませんので……死ぬ気でかかってきてくださいね……」

「ふぅ・・・」

若干半泣きになっているナズーリンに寅丸が黒い笑顔でそう私刑宣告しているなか、夜見は分離させて、浮かせていた頭を元に戻す。

「ふぅ…流石に長時間、頭を浮かせてると、身体のあちこちが痛くなるな……寅丸達はどうしてこんな修行しているんだ?この辺りの人間や妖怪からは襲われることはないから、別に強くなる必要はないんじゃないか?」

頭を元に戻した後、夜見は修行して強くなることの必要性について、首を傾げながらそう尋ねる。

「夜見さん。私達は別に戦うために強くなる訳ではありませんよ。」

「え?」

「私達が目指すのは『人間と妖怪が手を取り合って生きる世界』……その世界を実現させるためにもいざという時、私達の手で人間を護れるようにするために、強くなる必要があるんです……」

そんな夜見に対し、寅丸は笑顔でそう説明する。

「寅丸は聖と同じように人間のことが好きなんだな。」

「えぇ。私や聖だけでなく、ナズーリンや一輪も皆、人間のことが大好きですよ。」

「なっ!?ぼ、ボクは別に人間が好きって訳じゃないよ!!まぁ、一緒に生きていければ良いなぁとは思ってるけど……聖が目指している世界になったら、昔みたいに人間と妖怪でいがみ合うこともなくなるだろうしね……」

「フフフ……素直じゃないですね。ナズーリンは……そう言っておきながらこの前、迷子になった人間の子どもを半日かけて、家に送り届けてあげてたのを私は見てましたよ……」

「なっ!?み、見てたのか!?寅丸!!っていうか見てたんなら助けろよ!!あの子を送り届けたあの後、色々と大変だったんだぞ!!」

「っていうか寅丸はその日、半日もナズーリンのことを監察してたのか……さっきも修行の様子を見ていたみたいだったし、意外と暇なのか?」

寅丸とナズーリンがそう話をするなか、夜見は若干呆れながらそう尋ねた。
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