理想と現実

「……黒髪の眼鏡。あの女は私が相手をする。」

そんななか、少女が静かな声でそう言う。

「お?もしかして、好みの獲物ですかい?」

「お、おい…っ!」

「ふんっ。相手の実力を測れない奴では、ヤツの相手にならん。」

「あのコブについて、知ってるのか?」

クールな雰囲気でそう言う少女に対し、リーダー格はそう尋ねる。

「………。振る舞い方でわかる。ヤツは話している間もずっと店内外を警戒していた。」

対する少女は首を横に振りながらそう答える。

「………彼奴は強い……」

次の瞬間、少女はそう言いながらバイザーの奥から鋭い視線を千景に向けた。

街中・・・

「ッ!?」

「どうしました?郡さん。」

「……いえ……」

(今、今までで一番強い気配と敵意を感じたような……)

ワンボックスカー内からの少女の視線を感じたのか、千景はそう思いながらより一層警戒した……





「それじゃあ、二人は前のバイト先が一緒で千束ちゃんとは今日が初めて会ったんだ。」

「はい。」

「私は少し前に顔を合わせたことがあるんですが、それでも殆んど接点がなかったことには変わりませんね。」

それから時間が経ち、人気もなくなり辺りが暗くなってきた住宅街の中を三人はそう話しながら歩いていく。

「それでたきなちゃんは前のバイト先に戻りたいと……嫌になって辞めたんじゃないの?」

「いえ。少し誤解があっただけです。」

(誤解、ね……)

たきなの『誤解があった』という言い分に、千景はそう思いながらカーブミラーを見上げる。

(やっぱり喫茶店からつけられてるわね……)

そこに映っている白いワンボックスカーを見て、千景はそう思いながら真剣な表情になる。

(気配からして乗ってる人数は五人。中でも一際強い気配が後に控えてる……)

「そんなに戻りたいんだ?」

「戻りたいです。」

「よしっ!じゃあ、私も協力するよ!こう見えてもバイト経験豊富だからね!!」

「(ヒソッ)井ノ上さん、あれ……」

「っ!?」

そんななか、千景はそう言いながらカーブミラーを見るように促し、白いワンボックスカーの存在を知らせる。

「このまま放置すれば、家にいる時に襲われる可能性があるわ。」

「狭い室内での戦闘は危険です。何としても屋外にいる間に制圧しないと……」

「正論ね。でも、こっちには護衛対象がいる……」

千景はそう言いながらチラッと沙保里の方を見る。

「?」

「……彼女を危険に晒すつもり?」

「ですが、このままでは………郡さん、私に一つ考えがあります。貴女は引き続き護衛をお願いします。」

「………貴女、何をする気?」

「沙保里さん、こちらへっ!!」

「えっ!?」

次の瞬間、たきなはそう言いながら沙保里の手を引き、曲がり角の路地へと駆け出す。

「ちっ!」

たきなの意図を察した千景は舌打ちしながら後を追う。

ワンボックスカー内・・・

「おいっ!三人が急に走り出したぞっ!!」

「気付かれたのかっ!?」

「急いでスピードを上げろ!こうなりゃ撒かれる前に力ずくでも拉致るしかねぇっ!!」

「へ、へいっ!!」

ブロロロッ!!

ワンボックスカーも慌てて追跡する。

「………」

ガラッ!!

「!?“ブラッディーリーフ”!?」

そんななか、『ブラッディーリーフ』と呼ばれた少女がワンボックスカーから飛び降り下車し、自らの足で千景達を追跡する。

「!?」

(一際強い気配……車より速い!?)

「くっ……」

ドォンッ!!

追ってくるブラッディーリーフの気配に気付いた千景は走りながらサッチェルバックからデザートイーグルを取り出し、銃弾を一発放つ。

「………」

ガキィンッ!!

「!?」

が、ブラッディーリーフはすぐさま引き抜いた黒刀で弾きながら更に加速する。

「フッ!!」

「ッ!!」

ガキィィィンッ!!

その直後、斬りかかってきたブラッディーリーフの黒刀を千景は銃身の腹で受け止める。

「そいつの相手は任せたぞっ!ブラッディーリーフ!!」

二人が拮抗する間に沙保里を狙うテロリスト達の乗るワンボックスカーが横を通り過ぎていった。
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