理想と現実

「ふぅ……」

「何か困り事ですか?」

ミカが淹れたコーヒーを飲んで一息吐いた阿部に対し、千束はそう尋ねる。

「そうなんだよ。それで今回も千束ちゃんに……いや、たきなちゃん達も入れた四人に依頼したいことがあるんだよ。」

対する阿部はそう言いながら一枚の写真を手渡す。

「篠原沙保里さん……」

「あぁ、ストーカー被害ってのには警察は動きが鈍くってね。個人的にはどうにかしたいんだが、管轄が違うもんだから首を突っ込み辛い……申し訳ないけど女の子同士なら話も聞きやすいだろうし、四人に彼女の護衛を頼みたいんだ。」

受け取った写真の裏に書かれている名前を見ながらそう言う千束に対し、阿部はそう依頼する。

「おぉっ!つまり、ボディーガードですね!!」

「いつも悪いね。お礼といってはなんだけど、バイト代は弾むからさ。」

「おっほぉっ!俄然やる気が出ましたぁっ!!」

(現金な子ねぇ……)

バイト代という単語に目を輝かせる千束に梨紗はそう思いながら厨房の奥へと消える。

「それで沙保里さんとは何処で待ち合わせ?」

「駅前のビルにあるカフェだ。」

(カフェ……となると千束達の賄いはいらない……かしらね……)

「……マスター。ちょっと……」

「?」

「わっかりましたぁーっ!沙保里さんにはすぐに向かいます。って伝えて下さい!私達四人も大丈夫ですよ!!」

梨紗がそう思いながらミカにある確認を取るなか、千束は笑顔でそう言う。

「ありがとう。お代はここに置いとくから……」

「はぁーい♪ありがとうございましたぁーっ♪」

「ちょっとすいません、阿部さん。」

「ん?」

「宜しければ……」

店を出ようとした阿部に対し、梨紗はそう言いながらバスケットに入ったサンドイッチを差し入れる。

「おぉー、美味しそうだけど……良いのかい?」

「はい。いつも当店をご利用頂いてるのでサービスです。マスターにも先程、許可を取りました。」

「そうか。それじゃあ遠慮なく頂くよ。ありがとう。」

「またのご利用をお待ちしています。」

カランカラーン♪

「……千景。ちょっと……」

「はい。姉さん……」

「ふふーん♪今度のはたきな向けの仕事かもよぉ~♪なんせボディーガードだから!!」

「はぁ……」

梨紗と千景がそう話しながら奥に引っ込むなか、笑顔でそう言う千束に対し、たきなはそう言う。

「それじゃあ、早速制服に着替えて出発しましょう!!」

「悪いけど、今回は千景を入れた三人で行ってくれる?」

「?梨紗さん…と郡さん?」

直後、笑顔でそう言う千束にそう言いながら、梨紗は黒縁の伊達眼鏡を掛けた千景と共に戻ってくる。

「ちょいちょい!?梨紗は来ないの!?それに千景はなんで伊達眼鏡!?」

(いちいちテンションが高い子ね……)

「今回は狙撃は必要なさそうだし、私のこの足じゃ現場で足手まといになる可能性もあるからミズキさんと一緒に店の切り盛りをするわ。千景の伊達眼鏡はこの子は見ての通り、目付きが悪いから相手を怖がらせないためよ。」

慌ててそう尋ねる千束にそう思いながら、梨紗は千景の肩に手を置きながらそう説明する。

「あぁ……」

「えっ……」

そんな梨紗の説明に千束が苦笑いしながら納得するなか、たきなは思わず声を漏らしながら千景の方を見る。

「………」

「っ……」

が、千景の底冷えするような光がない眼差しに思わず息を呑む。

「え~と……っていうか梨紗はスナイパーだったの!?」

「言ってなかった?」

「いやいや!聞いてないから!!」

「因みに梨紗さんはDA1のスナイパーで『鷹の眼』とも呼ばれていますよ。」

「鷹の眼!?なにその二つ名、カッコいい!!」

たきなの梨紗についての説明に千束が目を輝かせながらそう言う。

「盛り上がっているところ悪いけど、さっさと準備して行った方が良いんじゃない?」

「「え?」」

そんななか、梨紗がそう言いながら外を指差す。

「………」

指差す先には既に制服に着替えていた千景が店の外で壁に腕組んで寄りかかりながら待っている。

「早っ!?さっきまで梨紗の隣にいたよね!!?」

「急ぎましょう!千束さんっ!!」

「う、うんっ!!」

そうして二人は急いで着替え、千景と一緒に待ち合わせのカフェへと向かった。
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