理想と現実

「いやぁ~、あんた、良い腕してるわね!!」

「本当にね!転属初日に早くも新メニューを作るなんて!!」

「アイスは店に元からあったのをマスターから許可を貰って使わせてもらったんだけどね。」

ピーク時が過ぎた頃、笑顔でそう言うミズキと千束に対し、梨紗は洗い終えた皿やカップを拭きながらそう言う。

「たきなと千景も!二人とも、接客が上手だね!!」

「全部、見よう見まねです。流石に疲れた………」

「千景は人見知りしがちだものね。」

「へぇ~!!」

「……私はこんなことしていて良いのでしょうか……」

千束と千景、梨紗の三人がそう話をするなか、たきなは現状に対してそう呟く。

「まぁ、銃を握るだけがリコリスの仕事じゃないってことよ。十八歳を過ぎたらリコリスは卒業、CIAとか海外の諜報機関に就職するんだから……」

「……梨紗さんは決められているんですか?」

「そうね……両親の後でも継ごうかしら……」

そう尋ねるたきなに対し、梨紗はそう言いながら淹れたブラックコーヒーを置く。

「貴女の好みでしょ?」

「あ、ありがとうございます。頂きます……」

出されたブラックコーヒーをたきなは一言、お礼を言ってから飲み始める。

そんななか、梨紗は千景にキャラメルラテを淹れる。

「……甘そうですね……」

「疲れてる時はこれよ。普段はエスプレッソ。」

キャラメルラテを見ながらそう言うたきなに対し、千景は軽く挑発的にそう言いながらキャラメルラテを飲む。

「………」

「………」

(え?なに?この空気……二人の間に火花が散ってんだけど!?)

(は?なにこの二人?なんか雰囲気も似てるし、同族嫌悪?)

「わ、私、梨紗にカフェラテを淹れてほしいなぁ~!!」

「私も今度はブラックをお願いできるかしら!!」

二人の間に流れる空気に両サイドにいた千束とミズキは冷や汗を流しながらそう注文する。

「カフェラテとブラックね。それと……千景、そこまでにしなさい。たきなも乗るんじゃないわよ。」

「……はい……」

「……すいません……」

千束とミズキの分を淹れながらそう言う梨紗に対し、千景はいつも通りに、たきなは深く反省しながらそう言う。

(いけない………彼女も今日からここで共に行動する訳ですから、仲違いするようなことは避けるべきですね………)

(井ノ上たきな……私の一つ歳上のセカンド。先日の機関銃の掃射でリコリスを救出するも目標は射殺……勝負に勝って試合に負けた。って感じね……)

「……ふぅ……ピーク時も過ぎたみたいだし。マスター、厨房を借りても良いですか?お昼の賄いを作りたいので……」

「あぁ、それは構わないが……」

「え?なになに!?梨紗が作ってくれるの!!?」

「そういえば、梨紗さんの料理の腕前はプロ並だってフキさんが言ってましたね。」

「へぇ~~~!!」

「まぁ、今回は簡単なものにするけどね。」

カランカラーン♪

「お。本当に新しい子がいるなぁ……」

そんななか、常連の阿部がそう言いながら来店してくる。

「あ!阿部さん!いらっしゃい!!二人とも、この人は常連の阿部さん!警視庁の刑事さんなの!!」

「はじめまして。郡千景です。」

「井ノ上たきなです。よろしくお願いします。」

「千景ちゃんにたきなちゃんか……リコリコに来る楽しみが増えちゃったなぁ……」

千束と千景、たきなの三人とそう言葉を交わしてから阿部はカウンター席に座る。

「ん?君も初めて見る顔だね?」

「いらっしゃいませ。今日からこちらで働かせて頂くことになった鳴護梨紗です。よろしくお願いします。」

「梨紗ちゃんか……よろしくね。」

「注文はいつものコーヒーですか?」

「あぁ、お願いできるかな?」

「はぁ~い♪」

「………」

阿部からの注文を千束が笑顔で受けるなか、梨紗は阿部の様子を観察する。

「……マスター。」

「ん?」

「阿部さん、なにか思い悩んでいるみたい。今は慣れ親しんだ味の方が良い。」

「……あぁ、わかった……」

そうしてミカがコーヒーを淹れ、阿部の前に置く。

「どうぞ。」

「あぁ、ありがとう。」
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