理想と現実

店内に入るとステンドグラス等洋風な造りのなかに畳の席が設けられた、まさに和洋折衷を体現した空間が広げられていた。

「………」

「……良い趣味……」

そんな空間を千景が惚けた表情で見渡すなか、梨紗は素直にそう感想を呟く。

『先日の競技でまたしても目覚ましい活躍を遂げた山田選手。今回は彼を支えた今や匿名支援の代名詞となっている謎の資産家、アラン・アダムズについて議論を交わしていきたいと思います。』

そんななか、店内の全員が観れるようにカウンター席の奥の天井の角に取り付けられているテレビで放映されているワイドショーから、そういう話題が流れてくる。

『尚、本日はハーバード大学教授であり、遺伝子工学の権威でもあるギルバード・デュランダル教授がゲストとしてお越し頂いております。』

『よろしくお願いします。』

『いやぁ~、またしても人の『善意』が歴史を変えた訳ですなぁ……』

司会の女性アナウンサーに紹介されたギルバード・デュランダルがそう挨拶するなか、番組のレギュラータレントの男性が陽気な感じでそう言う。

『アランの支援を受け様々な分野で活躍を遂げた彼ら、『アランチルドレン』……彼らの共通点はこのチャームのみ……』

司会がそう言った直後、番組内のモニターにフクロウのような形をしたチャームが映し出される。

『一方でその金の出所や選定に不満の声も……』

『凡人のやっかみですなぁ……教授はアラン・アダムズについて、どうお考えで?』

『そうですね……アラン・アダムズは人の才能を見抜く“力”に長けていると思います。そして、その才能を開花させるために支援し、環境を与えます。』

レギュラータレントに話を振られたデュランダルは自身の考えを述べる。

『そうして才能にあった環境に入ることが最も社会に貢献し、これが広がることで世界平和に繋がる……と私は考えます。』

『おぉっ!世界平和ときましたか!!』

「……ちっ……」

そう言うデュランダルの発言に番組内が盛り上がるなか、梨紗は小さく舌打ちしながら隣の千景を見る。

千景は魅力的に感じたのか、観入っている。

「……信じるんじゃないわよ。要約すれば、生まれ持った才能で全てを決めれば、世界は平和になるということ。確かに平和にはなるだろうけど、そこには人間性は何処にもないわ。」

「っ!?はい……」

そう言い聞かせてくる梨紗の言葉に、真意を察した千景は真剣な表情でそう言う。

「まったくよぉ……環境に入ることが社会に貢献するって言うなら、私に見合った男と出逢える環境を誰か作りなさいってのぉっ!!」

そんななか、カウンター席で酒盛りしていた茶髪の眼鏡の女性が荒れながらそう言う。

「ってまたリコリス……しかも二人……誰?」

「こんな時間から酒盛り……」

「はじめまして。本日からこちらに異動してきました鳴護梨紗です。こっちは相方の郡千景。」

「よろしくお願いします。」

吠えた後、首を傾げながらそう尋ねる女性に対し、二人はそう挨拶する。

「ふぅーん……ミカぁー。なんかたきなに続いてもう二人、来たんだけどー?」

対する女性はそう言いながら厨房の奥にいた大柄な黒人男性、ミカを呼び出す。

「!?」

「?」

呼び出されたミカは梨紗を見ながら、驚いた表情を浮かべる。

「?ミカぁー?どうしたのー?」

「あの……私に何か?」

「あ、あぁ、すまない。知り合いによく似ていたものでな……」

「はぁ……」

すぐさま平静を取り戻しながら謝罪するミカに対し、梨紗はそう言いながら首を傾げる。

(楠木から名前を聞いた時からまさかと思っていたが……やはり、あの時の……)

「……ここの管理者のミカだ。彼女は中原ミズキ。元DAの情報部だ。」

「よっ。」

そんな梨紗と千景に対し、ミカはそう思いながら自身と女性、中原ミズキを紹介する。

「改めて、鳴護梨紗です。」

「同じく、郡千景です。よろしくお願いします。」

対する二人も改めてそう挨拶した。
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