「………」

「何か考え事ですか？姉さん……」

道中の車内にて外を見ながら物思いに耽る梨紗に対し、千景はそう尋ねる。

「……今回の件で結果的には私にとっては組織を追う一歩をまた一つ、踏み出せた訳だけど……思っていた以上に面倒なことになっているかもしれない……」

「？どういうことですか？」

「さっき、司令室で通信障害の原因はジャミングかもしれないという私の推測に、楠木司令の片眉が僅かに動いていた……もし、ジャミングが原因ならあの人はあの場であっさりと認めている筈……」

「ということはジャミングが原因じゃない……？」

「それもあの楠木司令ですら私やフキに対して、口をつぐまざるを得ない程の大きな原因があの通信障害にあるってこと……」

「！？まさか……っ！？」

「……十年以上前からこの国の情報インフラを徹底管理してきたDAの誇る最強のAI……『ラジアータ』が何者かにハッキングされた可能性が高い……」

「ッ！？」

「……流石ですね。」

目を見開きながらそう言う千景にそう言う梨紗に対し、深沙希は運転しながらグローブボックスから資料を取り出し手渡す。

「貴女も流石ね。深沙希、もう調べがついてるなんてね。」

「それが貴女の亡きお父上の部下だった頃からの私の仕事なので……」

対する梨紗はそう言いながら、受け取った資料を千景と共に確認する。

「ウォールナット……」

「ネット黎明期から活躍しているウィザードで、世界一のハッカーと目される人物です。」

「ネット黎明期からってかなりのご高齢では……？」

「それ処か性別すらも未だに不明です。それにウォールナットはこれまでに何度も死んでいるという噂もあります。」

「まぁ、ハッカーのゾンビなんて今時のB級ホラーでも聞いたことないからネットのデマか、世襲制の名前なのかもね。にしても、世界一のハッカーか……」

「DA上層部もラジアータをハッキングして作戦の妨害、更には情報を抜き取ったウォールナットを秘密裏に始末するために血眼になって探しているようですが……」

「ふぅーん……」

「……探ってみますか？」

「そうね。消えた千丁の銃の件もあるし……」

「姉さんはウォールナットがラジアータをハッキングして、偽の取り引き時間を掴まさせたと……？」

興味深そうに資料を見ながらそう言う梨紗に対し、千景は真剣な表情でそう尋ねる。

「確証はないわ。ただフキと同じようにタイミングが気になるだけ。まぁ、流石に黒幕だとも思ってないけど……」

「そうですか……」

「深沙希。引き続き、調査をお願い。銃取り引きに関係あろうと無かろうと……こいつの顔を見てみたい……」

「承知致しました。もうじきリコリコ付近に到着します。」

「わかったわ。」

そうして三人の乗る車は新天地、『喫茶店　リコリコ』付近に到着する。

「店の前でなくて宜しかったのですか？」

「えぇ、少しは歩いた方が右足のリハビリにもなるしね。」

梨紗はそう言いながら千景と共に下車する。

「荷物はそのまま私のセーフティーハウスへお願い。管理を任せてる二人には既に話を通してあるから。」

「畏まりました……千景さん、お嬢様のことをよろしくお願いします。」

「はい。」

そうして深沙希の運転するシボレー・ブレイザーは走り去っていく。

「それじゃあ、行きましょうか。千景。」

「はい。姉さん。」

そうして歩くこと数分で二人はリコリコへと辿り着く。

「ん？」

「どうしました？姉さん。」

「いや、なんでもないわ……」

(何故かしら？今、懐かしい気が……)

「とりあえず入りましょ。私達の新しい職場に……」

店の前に着くと同時に感じた既視感に梨紗は首を傾げながらもドアノブに手をかける。

カランカラーン♪

そうして二人は店の中へと入っていった。