理想と現実

廃ビル、狙撃ポイント・・・

「たくっ、PAユニットがメンテナンス中のこんな朝っぱらから銃取り引きなんかしてんじゃないわよ……っ!」

数秒遡って現場から1500m離れた廃ビルにて、梨紗がそう悪態を吐きながら狙撃ポイントに着く。

『こちら、ウイング02。只今、現着しました。』

その直後、左耳に着けているワイヤレス音楽プレーヤーのような形状をした特殊無線からそう言う千景の声が聞こえてくる。

「こちら、ウイング01。こちらも狙撃ポイントに着いたわ。」

対する梨紗はそう返しながら立ち膝の状態でヘカートを構え、スコープを覗き込む。

(黄色がかった白髪に赤いリボン……彼女がフキが以前、話していた錦木千束か……)

『……応援のファーストを確認。これから協力して対処します。』

スコープで千景より少し遅れて現着した千束を確認した梨紗がそう思うなか、千景からそう言う通信が入ってくる。

「了解。今回は殺しじゃなくて生け捕り。全員を殺さずして無力化、人質のリコリスを救出する……できるわね?千景。」

『了解。姉さん。』

作戦を確認しながら梨紗は弾倉に二発の弾頭が黄色い弾丸を込めた後、一発の全体的に紅い弾丸を込める。

その後、ヘカートに装填し、現場に向けて構え直す。

「ん?」

そんななか、スコープの向こうで鹵獲ろかくしたPKMを構えるたきなの姿を確認する。

「!?千景!すぐにそこから退避しなさいっ!!」

梨紗が千景にそう警告した直後、スコープの向こうではたきなが機銃掃射する。

「チィッ!無茶をする……っ!!」

梨紗はそう言いながらスコープで爆煙を覗き込み、意識を現場に集中させる。

カァァァ

その際、無意識下だが梨紗の空色の瞳が僅かな光を放つ。

(……エリカは無事のようね。目標ターゲットは……)

『ザザッ令部!こちら、司令部!通信が届いているリコリスは応答せよ!』

そんななか、通信が回復したのか梨紗の特殊無線に本部からの通信が届く。

「……こちら、ウイング01。司令部へ報告。」

『梨紗!?』

「介入前にたきなが目標を機銃掃射で射殺。人質のリコリスは無事でしたが……」

梨紗はそう報告しながら、スコープで現場を注視しながら立ち上がる。

「……間に合わなかった私の責任です。」

スコープの向こうでフキに鉄拳制裁を受けるたきなを見ながら真剣な表情でそう報告する。

『ッ……やってくれたな……』

「取り引きの銃についてはこちらからは確認できませんので現場のリコリスから確認をお願いします。」

『わかった。一先ずそこから退避しろ。現場のリコリス達にはこちらから退避を命ずる。』

「了解。」

ブツッ!!

「……聞こえてたわね?千景。すぐにそこから退避しなさい。」

『ッ……了解。姉さん……』

その後、梨紗はヘカートをギターケースに仕舞い、背負ってその場を離脱した。

『ミカ。梨紗から人質の無事と目標の殲滅と報告を受けたが、そちらからも報告を聞きたい。』

「ちょっと待て…爆煙で今はまだ……」

その頃、現場の廃ビルの向かいのビルの屋上にて、インカム越しにそう言う楠木司令に対し、ミカと呼ばれた大柄な黒人男性はそう言いながらスナイパーライフルのスコープで現場を注視する。

「……今、確認した。人質は無事のようだが目標は……確証はないがピクリとも動かないところから全員、死んでいるだろう。」

『ッ……そうですか……』

「どうする?」

『現場のリコリス達には退避を命じました。ミカ達もすぐに。』

「あぁ……」

『ねぇ!先生先生っ!!今の見た!?応援のセカンドの子、アンカーガンって言うのかな?それで屋根に上がっていったと思ったら屋根伝いに駆けていったんだよ!?映画みたい!!』

楠木司令との通信を終えたミカに対し、千束が興奮しながらそう通信してくる。

「ははっ…また近い内に会うかもしれないな……撤収だ。千束。ミズキが車で近くに来ている。」

『りょーかい。またお店でね。先生。』

そうして千束とも通信を終えたミカはライフルをガンケースに仕舞い、ロフストランドクラッチを担いでその場を後にした。
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