プロローグ

「………」

あまりにも迷いがなく、鮮やかな動きに思わず見惚れてしまう。

「どうぞ。」

「は、はい……」

そんな私に対し、梨紗さんはそう言いながら淹れたてのブラック珈琲を差し出す。

そうして差し出されたブラック珈琲はインスタントとは違う、まるで喫茶店で出されるような綺麗な黒の色合いだった。

されど輝いているように見え、見ているだけで安心するような暖かさも感じる。

「召し上がれ。」

「い、頂きます。」

梨紗さんがそう言いながら再び豆を挽き始めるなか、私はそう言いながら珈琲を口につける。

するとブラック特有の苦みが強く、濃いめの味が口の中に広がる。

けれど香りと相まってホッと思わず息を溢す。

今までの珈琲とは違って、まるで『お疲れ様』と労ってくれているような温かくて優しい何かを感じる。

「……やはりおまえが淹れる珈琲が一番美味いな……」

私がそう思いながらブラック珈琲を堪能するなか、同じように淹れてもらった珈琲を飲んだフキさんが笑みを浮かべながらそう言う。

……この人もこんな表情をするんだ……

「♪~♪~」

そんななか、ハミング…なのだろうか、梨紗さんが何かの曲を鼻唄のように歌いながら豆を挽き始める。

それから程なくして梨紗さんはヒバナさんにカフェラテを、エリカさんにカフェモカを淹れる。

「やっぱり梨紗が淹れたカフェラテ美味しいぃ~♪」

「私はカフェモカが好きだなぁ……」

二人はそう言いながら、梨紗さんが淹れたカフェラテとカフェモカを堪能する。

「……喜ぶのは良いけれど、準備とかは良いの?」

「「?」」

「……この場は私の誕生日兼ファーストへの昇格祝いとたきなの歓迎会の場なのよね……」

「「あっ……」」

呆れながらそう言う梨紗さんの言葉にヒバナさんとエリカさんの二人は思わず固まる。

「はぁ……すいません。お願いします。」

「はいよ。」

そう言うフキさんに料理長さんがそう言った直後、豪華な料理と大きなバースデーケーキが運ばれてくる。

「大きいですね……」

「そうね…豪華な料理もあるし、流石に五人で食べきるのは無理そう……」

梨紗さんはそう言いながら立ち上がり、偶々食堂内にいた他のリコリス達を見渡す。

「……甘いものが食べたい子はいらっしゃい。
今ならコーヒーかカフェラテも付けてあげる。」





ワイワイ…ガヤガヤ…

「♪~♪~」

その後、料理長によって切り分けられたケーキと梨紗さんの淹れたコーヒーorカフェラテで食堂内が盛り上がるなか、梨紗さんはハミングしながら珈琲豆を挽く。

「………」

私はそんな光景を眺めながら、彼女の強さと優しさに仄かな憧れを抱いた……
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