花の確執

ひなたside

あの地下研究施設じごくから連れ出されてから一月ひとつき、私、上里ひなたは居候先である、前世まえは仲間だった千景さんと彼女の現代いま相方パートナーである鳴護梨紗さんの家での生活に慣れることができました。

彼女達のお勤め先である『喫茶リコリコ』でのお手伝いも最初は戸惑いましたが、心優しい同僚の方達や常連客の皆様のおかげで卒なくこなせるようになり、今では忙しくも楽しい日々を過ごしています。

「はいはぁーい。皆さぁ~ん、本日の営業時間は終了ですよぉ~。」

黄色がかった白髪に赤い着物を着た、千景さんの仲間の一人でリコリコここでは一番の先輩にあたる錦木千束さんがそう言いながら表の看板を『closeクローズ』に変える。

「待ってましたぁーっ!!」

「勝負だ勝負ーっ!!」

「今日こそは千景ちゃんとクルミちゃんの二大巨塔にリベンジよぉっ!!」

それと同時にまだ店内にいた、いや、残っていた・・・・・常連客の皆さんが各々おのおのにそう言いながら座敷席に集結する。

「ひなた。これを皆さんに持ってってやってくれ。」

そんななか、泰然と構え、紫の着物を着こなした黒人の男の人…リコリコここの管理者兼店長であるミカさんがそう言いながら、いつの間にか淹れていた人数分のコーヒーを載せたお盆を渡してくる。

「はい。店長さん。」

「今日はそのまま参加して構わないからな。」

「!ありがとうございますっ!!」

黒縁の眼鏡の奥から見える優しい瞳でそう言う店長さんの言葉に、私は思わず笑顔になりながらそう言う。

「リコリコ恒例閉店後ボドゲ大会!スタートぉっ!!」

『おぉーーーっ!!』

そうして私が合流したタイミングでそう開始宣言をする千束さんの言葉に、私含む常連客の皆さんから歓声が上がる。

『リコリコ恒例閉店後ボドゲ大会』……最近の私の楽しみだ……

「ネームの締め切り、明日って言ってたっすよね?」

「そっちこそ、原稿の進捗は大丈夫なの?」

しましょう。仕事の話は……」

カードを手にしながら互いに茶化す雑誌記者の米岡よねおかさんと漫画家の伊藤さんに対し、同じ常連客仲間の後藤さんがそう言う。

……以前まえもそう言って、翌日に千束さんに泣きついてませんでしたっけ?伊藤さん……

「実は自分も今は勤務中でして……」

「刑事さんもワルだねぇ。」

「私は編集仕事バイトの合間に大学のレポートを終わらせましたぁ~。」

苦笑いしながらそう言う阿部さんに常連客仲間の山寺さんがそう言うなか、伊藤さんの担当編集で大学生である北村さんはそう言う。

「それじゃあ順番決めるぞぉ~!
それとも全勝の千景から行くかぁ~?」

そんななか、見た目は明らかに私より年下なのに何処か大人びた雰囲気をした少女、クルミちゃんは右手にサイコロを握りながらそう言う。

普段は未来の猫型ロボットさんのように押し入れで生活しているけど、梨紗さんから贈られたペットロボのハロちゃんに時間を教えてもらってボドゲ大会が始まるタイミングで出てくる。

これで実態は世界一の天才ハッカー、『ウォールナット』って言うんだから正直凄いと思う。

はっ!?今やネットが普及しているこのご時世、彼女の力を借りれば私の『若葉ちゃん秘蔵コレクション』がより素晴らしいものになるのでは……っ!!フフフ……

「?ひなた。どうかしたのかしら?」

私がそう思いながら笑みを浮かべるなか、隣で座っている千景さんが首を傾げながらそう尋ねてくる。

「いえ。何も……」

いけない。思わず表情かおに出てしまいました……

「そう……」

「しかし、千景ちゃんは本当に強いね。」

「あっという間に上がっちゃうもんねぇ……」

「今回は負けませんよぉ~!」

私がそう思いながら反省しているなか、阿部さんと山寺さん、北村さんの三人がそう言う。

「………千景さんは遊戯ゲームがお好きなんですか?」

そんななか、私は首を傾げながらそう尋ねる。

「別に………ゲームが好き、という訳ではないわ。ただ、勝ち筋がみえる、という訳よ。」

「………ふふっ、そうですか……」

しれっとした表情でそう言う千景さんの言葉に、私は先程とは違う理由で再び笑みを溢してしまう。

………やっぱり千景さんは、千景さんなんですね……

「ねぇ、たきなも一緒にやろうよ。」

私がそう思っているなか、千束さんがレジの近くにいる黒髪のツインテールに蒼い着物の少女、井ノ上たきなさんに声を掛ける。

「レジ締めなら私も手伝うからぁ。」

「もう終わりました。」

「はやっ!?」

「レジ誤差0。ズレなしです。」

早い……
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