ウォールナットを逃がせ!!

『予定と違ってすまない。ウォールナットだ。』

「はいはい、千束ですぅ~。右がたきなで左は千景。助手席に座っているのはもう聞いてると思うけど梨紗姉……なんかイメージしていたハッカーさんと違いますね?」

『底意地の悪い痩せた眼鏡小僧とでも?だとしたら、映画の観すぎだよ。』

「ほら、やっぱり。」

「いやいや。だとしても、着ぐるみはないでしょ。」

「それには同意ね。」

『ハッカー=着ぐるみ』というイメージは湧かないという千束の意見に千景は頷きながら肯定する。

『ハッカーは顔を隠した方が長生きできるってだけさ。寧ろボクに言わせれば、JKの殺し屋の方が異常だよ。リコリス……』

「熊のハッカーよりは合理的ですよ。」

「たきな。犬だよ。」

「ビーバーでしょ。歯とか目立つし……」

「リスよ。デフォルメ過ぎてて分かりにくいでしょうけど……」

(((リス……?)))

着ぐるみのモチーフがリスだという梨紗の言葉に三人が何とも言えない空気になるなか、軽自動車は信号に差し掛かる。

『……どう合理的なんだ?』

「ん~とつまり、都会じゃ目立たない格好ってことですよ。制服これ。」

『ほぅ……JKの制服は都会の迷彩服という訳か。』

「あの……梨紗さんが抱えてるのは何です?」

『ボクの全て。国外逃亡には身軽な方が良いだろう?』

「いや。着ぐるみあんたの姿が一番身軽じゃないですけどね?」

「っていうか飛行機に乗れるの?これ……」

(まぁ、中身は偽者で本人はスーツケースこっちに隠れてるんだけどね。)

「けど良いなぁ……私も海外行ってみたい……」

唯一事情を知っている梨紗がそう思っているなか、千束は思わずそう呟く。

『一緒に来るかい?』

「あぁ~、リコリスわたしたちは戸籍が抹消されてるからパスポート取れないんですよ……」

着ぐるみウォールナットからの何気ない誘い文句に千束がそう言った瞬間、車内が何とも言えない空気に包まれる。

『……すまない。デリカシーに欠けていた。』

「良いんですよぉ♪もう気にしてませんからっと……来てないね…追っ手……」

「そうね……」

「まぁ、貴女達と合流する前にタイヤをパンクさせてきたから、その分遅れてるんでしょ。」

「なるほど……流石姉さん……」

「梨紗姉、やるぅ~♪たきな。このまま羽田へ?」

「いえ。途中で車を変えるように言われてます……ウォールナットさん、ここに向かって下さい。」

そう尋ねる千束にそう答えながら、たきなはそう言いながらスマホの画面を着ぐるみに見せる。

『……わかった……』
11/34ページ
スキ