ウォールナットを逃がせ!!

「ほぅ……これは面白いね……」

リコリコにて、ミカの旧友であるスーツ姿の男性、吉松シンジはそう言いながら千景が作った、梨紗考案の『角煮サンド』に舌鼓を打つ。

「しっかりと煮込まれて柔らかくなった豚肉の旨味に、そこから出てくる肉汁と甘辛いタレを受け止め吸い込んだ食パン……パンは米粉で出来ているのかな?それらをほんの少しのカラシがしっかりと引き締める……うん。美味い……」

「ありがとうございます。姉さんも喜びます。」

「その梨紗ちゃんは今日は?」

「姉さんは今日、図書館で受験勉強してから来ると仰ってました。」

「そうか……彼女にもお土産を用意しているんだが……」

「後で私から渡しておくか?シンジ。」

「あぁ、頼むよ。ミカ。」

(………この人、マスターと同様、以前に姉さんと会ったことがあるのかしら…)

吉松がそう言いながらミカにお土産であるCDを手渡すなか、千景はそう思いながら二人の様子を見守る。

「!?これは……」

「向こうで偶々、手に入れてね……」

カランカラーン♪

「千束が来ましたぁー♪」

預かったCDの表紙を見て少しだけ驚きの表情を浮かべるミカに吉松が笑顔でそう言うなか、千束が笑顔でそう言いながら店に入ってくる。

「おぉー♪ヨシさん、一月ひとつき振りじゃないですかぁー?」

「覚えてくれてたんだね。」

「まぁ、お客さん少ないお店だから……」

「お客さんが少なかったら、それはそれで困るんですが……」

笑顔でそう言いながら吉松の隣に座る千束に対し、千景はジト目で見ながらそう言う。

「あぁ!うそうそ!梨紗姉と千景、たきなの最初のお客さんですもん。忘れませんよ。」

「フフ……」

「はぁ……」

「それで今回は何処だったんですか?アメリカ?ヨーロッパ?…あぁ!中国でしょ!?」

「残念。ロシアだよ。はい。こっちは千束ちゃんに……」

「えぇ~?なんですか?これぇ~♪」

千束は笑顔でそう言いながら、吉松からお土産であるでんでん太鼓を受け取る。

「先生と出会ったのもロシア?」

「千束。早く支度しなさい。」

「はぁーい♪」

「ハハ……それじゃあまた。千景ちゃんも新作のサンド、美味しかったよ。」

吉松がそう言いながら勘定を済ませ、店を出ようとした瞬間、制服に着替え終わったたきながフロアに出てくる。

「お土産ありがとうございましたぁー♪」

カランカラーン♪

たきなと互いに会釈した後、笑顔でそう言う千束の言葉を背に吉松は店を後にした。
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