ウォールナットを逃がせ!!

『どうなされますか?』

「そうね………これまでを見るに、生き延びている可能性もある。引き続き追跡をお願い。場合によっては、こちらに接触してくるかもしれない……」

薬室内の清掃を終えた後、今度は外側の汚れを落としながら、梨紗はそう指示を出す。

『お嬢様方に、でございますか?』

「ドローンで見ていたなら、私達の顔は割れている。そして依頼主に命を狙われているのなら………」

『それと敵対する組織に与する………ということでございますね。』

「そういうこと。ともかく、貴女達は引き続き、ウォールナットの跡を追って。」

『承知致しました。』

そうして深沙希との通信を終える頃には銃身の外側の汚れがある程度落ちる。

それを確認した梨紗は仕上げに予めガンオイルに浸しておいたパッチをバレル内に通して、さび防止のための被膜を張る。

そうして手入れを終えた後、軽く構えて動作確認をする。

(うん。特に問題はなさそうね……)

梨紗はそう思いながらヘカートを再びソファーに立て掛け、手入れ道具の一式を片付ける。

「あっさりと割られた胡桃クルミになったのか、それとも栗鼠リスの如く逃げ回っているのか……どっちなのかしらね。ウォールナットさん?」

その後、梨紗はそう言いながらまだ湯気が上がっているコーヒーに口をつける。

Prrr……Prrr……

その直後、梨紗のスマホに着信が入ってくる。

「(ピッ!!)もしもし?」

『私だ。梨紗、朝早くからすまないな。』

「マスター?大丈夫ですが、どうかしましたか?」

『クライアントからリコリコうちに直接の緊急依頼が入ってな。千束とたきなは勿論、梨紗と千景の二人にも協力してほしい。』

「緊急依頼?内容は?」

『とあるハッカーの亡命の手助けだ。』

「!?とあるハッカー……」

『千景には後で店で話すが、梨紗は今から言うホテルに一人で来てほしい。詳しくはそこで話す。』

「了解しました。」

ピッ!!

「……とあるハッカーからの緊急依頼……ね……」

ミカとの通話を切った後、梨紗はそう言いながら残っているコーヒーを一気に飲み干した。
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