ウォールナットを逃がせ!!

「ウォールナットが死んだ?」

『はい。DA本部こちらに届いてきた情報です。』

佐保里に対する拉致未遂から一ヶ月後の朝、自分のセーフティーハウスにて、思わずそう聞き返す梨紗に対し、本部にいる深沙希は特殊無線越しにそう報告する。

『DA本部の上層部は今、その事で混乱に陥っている様でございます。』

「ふぅーん……でもそいつ、30年の間に何度も死んでるんでしょ?今回もそうなんじゃないの?」

梨紗はそう言いながら今しがた淹れたコーヒーを片手に、補助具を付けてないので杖をつきながらヘカートを立て掛けてあるソファーに歩み寄り腰掛ける。

尚、今は白いTシャツに水色の短パンとラフな格好をしており、髪も下ろしている。

『私もそう思い、Fドックのノアさん達にも協力して頂いて探りを入れてみましたが……現状、対象に繋がるネットワークは全て機能していない上、撒き餌として出したダミーの高額依頼にも反応がありませんでした。』

「それってつまり、ネット上からは完全に姿を消しているってこと?」

ウォールナットの生死について、そう言う深沙希に対し、梨紗はソファーの近くにある手入れ用の台を膝の上に乗せながらそう確認する。

『ウォールナットはどうやら自身で情報を隠蔽していたようで、姿を消してからというもの足取りが見つかり始めました。』

台を膝に乗せた後、ソファーに立て掛けてあるヘカートを横向きに固定してからバレル内を清掃するなか、深沙希からの報告が続く。

「最新の足取りは?」

『ノアさんが見つけました、『DAへのハッキング』が最後に請けたものと思われます。裏付けも確認致しました。こちらをご覧下さい。』

深沙希がそう言った瞬間、テーブルの上にあるPDIの画面に爆破されたビルが映し出される。

「!?これは……爆発事故が報道されたビルね。」

『実際は意図的に爆破されたものでございます。このビルの残骸で回収しましたコンピューターからハッキングの痕跡が得られました。』

「……これって確か一月ひとつきくらい前に起きたことよね?」

『正確な発生時刻も確認致しました。丁度、お嬢様方がくだんの拉致未遂犯を制圧した直後でございます。』

バレル内の清掃に続いて薬室内を清掃しながらそう尋ねる梨紗に対し、深沙希は冷静にそう報告する。

「最後に請けた依頼が『DAへのハッキング』で重要な証拠を持つ佐保里さんの拉致に失敗した直後に起きた爆破事件……サポートに失敗したことに対する制裁か口封じ目的で消されたってことなのかしらね……」
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