理想と現実

『この距離のドローンに気付くとはな……』

その頃、都内の何処かの道路脇に停車している車内にて、機械で加工された声が響き渡る。

『しかも、たった一発で当てるとはたいした腕だ……』

声がそう言うなか、車内の後部座席に設置されているモニターにはたきなに撃ち落とされるまでの、梨紗達の監視映像のリプレイが流れる。

映像はやがて千束、そして梨紗への拡大映像に切り替わる。

「千束……そして何故、君がそこにいる?……梨紗……」

映像を観ていたスーツ姿の男性はそう言いながら、愛おしそうに画面に触れる。

『リコリスと知り合いなのか?』

が、直後に画面がリスを模したウォールナットのトレードマークに切り替わる。

『国家に仇為す者を消して回る噂の処刑人が、まさかこんな少女だったとは驚きだ。』

「流石はウォールナット。博識だな。」

『無知であることは嫌いなんだ。だから、もっと知りたいことがある……』

「報酬だね?依頼したDAへのハッキングには満足している……十分な額を用意するよ。」

『そうじゃない。』

「ほぅ……何かね?」

『どうして、銃取り引きなんぞに関わる?ん?』

首を傾げながらそう尋ねる男に対し、ウォールナットは直球でそう尋ねる。

『施しの女神はタブー無しなのかい?『アラン機関・・・・・』……』

「………」

続けるウォールナットからの問いに対し、男は答えずに運転手の女性にサインを送る。

女性はディスプレイからコマンドを選び、コードを実行する。

ドッカァァァンッ!!

すると近くのビルで爆発が起き、一部の階が停電する。

ブロロロ……ッ!!

その階から上がる黒煙を確認した男は車を出すように指示する。

「……無知である方が、人は幸福なんだよ。ハッカー……」

男を乗せた車はそのまま夜の闇へと消えていった。
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