理想と現実

「!?非殺傷弾……殺す気はなかった……?」

「たきな!梨紗!沙保里さんを!!」

「は、はいっ!!」

「………」

千束にそう言われたたきなと梨紗は未だに麻袋を被せられた状態で放置されていた沙保里に駆け寄る。

「ッ!!たきなちゃ~ん!!!」

「ッ……」

麻袋を外された沙保里は泣きながら、そう言いながらたきなに抱きつく。

「くっ……この野郎っ!!」

そんななか、意識を取り戻したリーダー格がそう言いながら、拳銃をたきなと沙保里に向ける。

ガッ!!

が、梨紗が横からリーダー格の拳銃を掴む。

「くそがっ!腕を吹き飛ばしてやる!!」

リーダー格はそう言いながら引き金を引こうとする。

カチャ…カチャカチャ……

が、弾が出ない。それどころか引き金自体が動かない。

よく見ると、梨紗は拳銃のスライドを数ミリ後退させた状態で掴んでいる。

「な、なんで」

ドカッ!!

「ガッ!?」

撃てないことに困惑するリーダー格に梨紗は鳩尾に肘鉄を食らわせ、意識を再び刈り取りながら拳銃を奪い取る。

その後、梨紗はダウンさせたリーダー格に奪い取った拳銃の銃口を向ける。

「ちょいちょいちょい!?梨紗姉っ、撃っちゃ駄目!『いのちだいじに』!!」

が、千束が慌ててそう言いながら止めてくる。

「!?」

その瞬間、梨紗の脳裏に幼い頃の僅かな記憶が甦る。

(『よく来て下さいました、先生。そちらは娘さんですか?』

『いえいえ、私で良ければ喜んで。この子は一人娘の梨紗です。ミカさんこそ、お子さんが居るんですね。』

『あぁ、色々と、訳アリで………千束と言うんです。』

『はぁーい!錦木千束でぇーす!』

『…朝鳴・・梨紗です。よろしく。』

『よろしくね!梨紗姉!!』)

(今の記憶は……)

「……その『いのちだいじに』って敵も?」

「そう!敵も!ほら、あんた、大丈夫?」

怪訝な表情でそう尋ねる梨紗に千束はそう答えながら、負傷している運転手に話しかける。

「こ、殺さないでくれ……」

「殺さないって!ほら!手当てするからジッとして!!」

「痛てっ!?痛てててててててっ!?」

「暴れないっ!!」

痛がる運転手に対し、千束はそう言いながら治療を続ける。

そんな千束を見て、梨紗はため息を吐きながら奪い取った拳銃からマガジンを外して地面に落とす。

そして、そのマガジンを蹴って車の下に滑り込ませる。

「……クリーナーをお願い。白いワンボックスカーで人数は四人。座標は後で送るわ……安心しなさい。今回はヘカートを使ってないし、誰も死んでないから……」

その後、梨紗はPDIを操作してDA時代から利用している民間揉み消し業者、『クリーナー』に連絡を取る。

「失礼ね。私だって何度も派手にやってる訳じゃないわよ。今の私はリコリコにいるんだしね。」

クリーナーと通話でやりとりをしながら、梨紗は千束に目配せする。

「!あ!私、千景の迎えに行くから!たきな、沙保里さんのこと、お願いね!!」

「は、はい……っ!!」

対する千束はたきなにそう言ってから、千景の方へと駆けていく。

「それじゃあお願いね。」

そうしてクリーナーとの通話を終えた後、梨紗は近くのブロック塀に寄りかかりながら千景の伊達眼鏡式カメラ兼通信機で記録した、ブラッディーリーフと千景の戦闘を確認する。

「あの……梨紗さん……」

「………」

そんな梨紗に対し、たきなは話しかけようとする。

が、梨紗はチラリと視線を向けただけですぐさまPDIに集中する。

「???」

「千束と千景、無事に戻ってきましたよぉ~。」

そんな梨紗の様子にたきなが困惑しているなか、程なくして千束と千景が戻ってくる。

「うぅ……」

「ッ!!」

「!?」

その直後、怯えている様子の沙保里に気付いた千景がたきなの胸ぐらを掴み、沙保里には見えないように近くの路地裏に引き込む。

「ちょいちょい!?千景!?」

そんな二人を千束は慌てて追いかけようとする。

「今は黙って見守りなさい。千束……その方が二人の今後のためよ。」

「う、うん……」

が、そう言う梨紗によって止められた。
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