一時勤務

「そう……こっちの先生もね、高い技術を持っていながら技術的ブレイクスルーが起きないように注意していたわ。私と梨紗が正式に部下になってからも私達の成長に合わせて教えて下さった………」

そんなノゾミの答えを聞いたスィン博士はそう言いながら自分達の世界の佑人博士のことについて、語り始めた。

「若い頃に生み出した技術は一度失われてしまったけど、先生は万が一に備えてもう一度開発しようと再研究を始めた。でも、その研究中の事故で亡くなってしまったの。」

「!?どんな事故で亡くなったんですか……?」

この世界の吉田佑人が故人になっていることを知ったノゾミは暗い表情を浮かべながらそう尋ねる。

「GNドライブの稼働実験よ。事故の影響で今は凍結しているけど………」

「なるほど………」

(GNドライブのデータならサクラの中にも入っている……)

「あの……ッ!?」

「………」

スィン博士からそう聞いた後、ノゾミはそう言いながら自分達の次元のGNドライブに関するデータを提供しようとする。

が、スィン博士が右掌を前に突き出す形で制する。

「そちらのデータを貰えば………きっと完成できる。でもねノゾミ、これは私達の課題。私達が乗り越えなきゃいけない壁なの。だから気持ちは嬉しいけど、そのデータは受け取れないわ。」

次の瞬間、スィン博士は優しい表情でそう言う。

「自分で乗り越えなきゃいけない壁……」

スィン博士が言ったその言葉を反芻しながら、ノゾミは思い詰めた表情を浮かべる。

「………」

「!?」

そんなノゾミの頭をスィン博士は撫で始める。

「あ、あの………」

「誰でも生きている間はきっとこうして『壁』にぶち当たることが何度もある。例え左目が見えずとも、それを乗り越えていくことで更に見えてくるものがある筈よ。」

若干戸惑うノゾミに対し、スィン博士は優しい笑顔でそう語りかける。

(お母さん……)

「こんにちはぁー!ノゾミちゃん、います?」

「!?響さん……それに翼さんも……」

「いるけど、どうかしたかしら?」

そんななか、そう言いながら翼と共に入ってきた響に対し、スィン博士はそう尋ねる。

「突然、すいません。彼女を暫しお借りできませんか?彼女の空間認識能力の向上を目的とした訓練を施したいので。」

「私の……ですか?」

「ということはやっぱり見えない左目の死角かしら?」

「!?気付いてたのですか……」

「まぁね……良いんじゃないかしら。丁度一息入れようかと思っていたところだし……」

「では、お言葉に甘えて……」

「えぇ、梨紗には私から言っておくわ。」

そうして翼、響、ノゾミの三人は研究室を後にした。
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