一時勤務

「これは『逆刃刀・影打』の欠片……
幕末の頃に名を馳せた刀匠、新井あらい赤空しゃっくうが『泰平の時代を切り開き、多くの御子を護る刀であってほしい』という願いを込めて打った最期の二振りの内の一振りよ。
かつて『人斬り抜刀斎』と云われた流浪人に新たな道への選別として託された。
そして人を殺す殺人剣で振るうのではなく、人々を守る活人剣で振るうことを望まれた刀でもある……と云われているらしいわ。」

「人々を守る……」

「とはいえ、人以外のものは容赦なく斬り捨てたらしいけどね。」

「そ、そうなんですか!?」

「僅かに残された記録ではそう記されていたわ……それより、そっちの『私』の技術についての資料は纏まったのかしら?」

「は、はい。エネルギーの効率についてはーーー」

ノゾミはそう言いながらポッピーや愛機であるサクラと協力して作成した、自分達の知りうるリサ達の技術について、纏めた資料を梨紗博士とスィン博士に手渡す。

「なるほど……別世界とはいえ、流石は梨紗ね……」

「………」

「梨紗?」

「……これ、私じゃない……父さんだわ……」

「!?先生の?」

「えぇ、ここの理論の展開に、技術への利用………開発思考が父さんのだわ。」

「えっと……本当だわ。先生と同じ考え方ね。」

「あちらの父さんは、この問題を解決できたのね……」

指摘された点を見てスィン博士が納得するなか、梨紗博士は複雑な表情でそう言う。

「?梨紗博士?」

「……ノゾミ。あちらの父さんは今も健在なのかしら?」

そんななか、そう言いながら首を傾げるノゾミに対し、梨紗は複雑な表情のまま、そう尋ねる。

「は、はい。佑人さんは今も『希望島』という島で研究を続けてます。」

「……そう……」

「あ、あの……」

「ごめんなさい。ちょっと疲れたみたいだから休むわね。」

「……わかったわ。梨紗、ゆっくり休んで。」

梨紗博士はそう言いながら退室する。

「えっと……大丈夫なんでしょうか?」

「多分………大丈夫よ。時間は必要だけどね。あの子、ああ見えて凄く家族想いだから………先生との思い出が過ったんだと思うわ。」

「!?この世界の佑人さん………」

「えぇ、そっちの先生はどんな人だったのかしら?」

ノゾミがいた次元の『吉田佑人』のことについて、スィン博士は何気ない気持ちでそう尋ねる。

「えっと……私は直接お会いしたことはないんですけど、自分達が生み出す技術がどれくらいの影響を与えるかを考えながら、行き過ぎた技術が広まらないように注意しながら人々の生活を護るために研究を今も続けている……と梨紗さんから聞きました……」

対するノゾミは戸惑いながらもそう答えた。
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