補習と歯車と夢と・・・

???Side

一人の赤子が産まれたことは、忘れることは出来なかった。
小さく、柔く、暖かく、うるさく……無垢で…。
それまで接したことがないが故に、壊れそうだと思いながら触れた指は存外力強く握られ。
目を開き、現れた淡紅色の瞳が見つめてきた時。
嗚呼、この子を守らねば、と強く思った。

自分とは年が離れて産まれたその子は成長するにつれ、体が弱く、季節の移り目には体調を崩すことが多かった。
それでも、季節によって姿を変える自然を、草花を眺めるのが好きで庭を眺めていることも多かった。
様々なことを知り、その瞳からは無垢さは消えたが、代わりのように穏やかな気質とは違って力強い光を宿していた。
兄上と呼び、笑みを向けてくる姿は微笑ましくて…。
輿入れしに行く日までその日常が続くと思っていたのだ、ずっと。

燃えていく、汚されていく。
異国の兵器により、自分が、あの子が愛しているこの国が。
人が、動物が、自然が、命を絶やしていく。
その中には、同じ血を分けたあの子もいて。
淡い紅から、光が消えていく。
何も見えないのか、目が合うことがなく。

「あにう、え……先、ゆ、く…ふ…うをお………しく、さ…」

掠れた、ほぼ吐息のような声で言葉を紡いで。
温もりを失っていく体が、氷のようにさらに冷えていく。
どれほど体温を分け与えるために抱き締めても嘲笑うように。

ただただ、自らの頬を濡らす雫の熱しか感じられなくなるように。
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