杯の少女

回想、『FIS』、メンテナンスルーム・・・

「プレシア。セレナの状態は……」

「健康状態は至って問題はないわ。ただ、相変わらず眠ったままよ。」

ネフィリムの暴走事故から六年後、『FIS』のメンテナンスルームにてそう尋ねるナスターシャ教授に対し、同期の研究者にして親友であり、医師免許も持っている黒髪ロングヘアーの女性、プレシア・テスタロッサはカプセルベッド内で眠り続けているセレナを見ながらそう答える。

「そう……ですか……」

「無論、医師としてこれからもできることはしていくけど」

「プレシア教授。例の聖遺物のことでちょっと……」

「あぁ、はい。ごめんなさい。ちょっと行ってくるわ。」

「わかりました。戻ってくるまではセレナの様子を診ています。」

そうしてプレシアは部下の研究者と共にメンテナンスルームを後にする。

「……セレナ……」

その後、ナスターシャ教授はそう言いながら、セレナの眠るカプセルベッドの近くにある椅子に腰掛ける。

(あの時、彼女が命を懸けて歌った『歌』のお陰でネフィリムは再び眠りに就き、私やプレシア、何人かの研究員、そして、施設の外にいる人々の命が護られました……ですが、それまでに払った代償も大きすぎました……)

眠るセレナを見ながら、ナスターシャ教授は六年前の事故で命を落としたマリアや切歌、調を始めとした『レセプターチルドレン』の子ども達のことを思い起こす。

「………」

「!セレナ!!」

そんななか、セレナのまぶたが開いていくのに気付いたナスターシャ教授はすぐさまカプセルベッドの蓋を上げる。

「!?あなた……一体何者ですか……?」

「………」

が、起き上がったセレナの瞳を見て、ナスターシャ教授は険しい表情でそう尋ねる。

その時のセレナの瞳の色は六年前の翠からシアンに、雰囲気もセレナからゼノヴァのものへと変わっていた。
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