武人の国

中庭・・・

「酔った娘を止めなくて大丈夫なのか?」

「デュオもシャトラもいますから大丈夫ですよ。それよりも……」

「ん?」

「……どうして、このタイミングで私達や彼女達を招いたんですか?徳田さん。いや、この国の管理者、将軍、徳川吉宗様。」

真剣な表情で佳奈多がそう切り出した瞬間、

バッ!!

スコーピオンオルフェノクとの戦いの最中、佳奈多やはやてを助けたくの一が現れ、右手に持ったクナイで佳奈多に斬りかかってくる。

「フッ!!」ガシッ!!

「!?」

ドカァァァンッ!!

「ぐっ!?」

が、佳奈多はくの一の右腕を掴み、組み伏せる。

「くっ!!」

(この者……強い……!!)

「よせ。尚美なおみ。」

「しかし、上様。」

「この者に敵意はない。ただ、余の真意を聞きたかっただけだ。そうであろう?佳奈多。」

「えぇ。その通りです。」

そう尋ねる新之助改め『武人の国』の管理者、将軍、徳川吉宗に対し、佳奈多はそう答えながら取り押さえたくの一、白浪しらなみ尚美を解放する。

「ッ……」

解放された尚美はすぐさま吉宗の側まで移動し、片膝を着く。

「家臣が失礼したな。」

「いえいえ。主の正体を見破られれば、当然の反応です。それで私達を招いた理由について、お聞きしたいのですが……」

自分達を招待した理由について、佳奈多は改めてそう尋ねる。

「……おまえ達も見たであろう?この国の多くの武人達が妖怪や半妖達に対し、どのように見ているかを……」

「ッ……」

そう言う吉宗の言葉に佳奈多はスコーピオンオルフェノクとの戦いの後に浴びた武人達の視線を思い起こす。

「既に早苗から聞いていると思うが、この国の多くの武人達は昔から妖怪と半妖を一概に『悪』と見なし、敵視している。そして、鎖国的な考えも多く、他国との貿易も行っていない。」

「………」

「上様はそんな国や武人達の考え方に憂い、変える方法はないかと苦心なされていた。」

「そんな時に『人間と妖怪が手を取り合う世界』の実現を掲げる『妖怪の国』とその『妖怪の国』で起きた『ジャック』による内乱、それを解決したおまえ達のことを知った。」

「上様はあなた達から話を聞き、可能なら『妖怪の国』が掲げる世界の実現への協力と貿易を結ぶことを申し出たいと考え、あなた方を招いたのです。」

「なるほど……身分を偽っていたのは私達の『素』を見るためですか?」

「あぁ。相手の『本来の姿』を知るにはこの方が都合が良いのでな。」

「上様はこうして身分を偽り、ただの一介の武人、『徳田新之助』として民達の生活と本音を直に見て聞いて、政策に取り入れております。」

「無論、騙していたことについては謝罪する。すまなかったな。」

「いえいえ。お話はわかりました。が、他の家臣や民達は納得しているのでしょうか?管理者であるあなたが今まで敵視していた妖怪と歩み寄ろうとしているのを……」

吉宗と尚美から一通り、話を聞いた後、佳奈多は真剣な表情でそう尋ねる。

「あぁ、爺を始め、多くの家臣達も妖怪達に理解を示し、余の考えに賛同してくれている。一部は賛同すべきか考えあぐねているが……」

「民達の方も妹紅を始めとした一部の者達が妖怪と歩み寄ろうという動きをみせていることが確認されています。それでもあなたも見ての通り、多くの民達が妖怪・半妖に対して敵視又は警戒していますが……」

「なるほど……それでは少し問題ですね。いくら民達から敬愛されているあなたの鶴の一声でも今まで敵視してきた妖怪達の国と貿易を結び、妖怪と歩み寄ろうという考えを民達が簡単に受け入れるとは思えない……先の『ジャック』による内乱の件も相まってあなたが『ジャック』で操られているのではないかと勘繰った武人達による内乱が起きる可能性があります。」

「ふむ……」

「上様。やはり、例の件も彼女達に協力をお願いすべきかと……」

「そうだな。彼女達の協力によってあの件が解決したことが知れ渡れば、武人達の妖怪や半妖達への見方も変わるやもしれん。」

「?あの件?」

真剣な表情でそう話をする吉宗と尚美に対し、佳奈多は首を傾げながらそう尋ねる。

「実はな。ここ一月ひとつき程前から強力なサイキックを持った、身寄りのない子どもが行方不明になる事件が多発しているのだ。」

「新撰組も動かし、捜しているのですが今日、あなたの娘が倒した灰色の怪物の同族と思われる怪物も頻繁に出没し、その対処に追われていることもあり、依然として子ども達の行方はわからず仕舞いです。」

対する吉宗と尚美は真剣な表情でそう答える。

「オルフェノクの出現にサイキック……ニュータイプを狙っている……?」

「その様子だとやはり、あの灰色の怪物について、何か知っているのだな。」

そう言いながら思案し始める佳奈多に対し、吉宗は真剣な表情でそう言う。

「はい。あの怪物はオルフェノクと言ってーーー」

対する佳奈多はそう言いながらオルフェノクについて、説明する。

「ーーー以上が私が知りうるオルフェノクに関する全てです。」

「なるほどな。こちらが思っていた以上に厄介なことになりそうだな。」

「上様。今の話を聞いて尚更、彼女達に協力してもらうべきかと………」

「そうだな。最初は心のある妖怪とその妖怪と親交の深い者達によって事件が解決したとあれば、武人達の妖怪に対する見方も変わるかもしれんという考えで頼むつもりだったが……どうやらこの事件はこの国の手に負えるものではなさそうだ……」

佳奈多のオルフェノクに関する説明を聞いた後、吉宗は尚美とそう話しながら佳奈多の方を見る。

「この国の管理者として改めて頼む。おまえ達の“力”を貸してほしい。」

吉宗はそう言いながら頭を下げ、尚美も同じように頭を下げる。

「……わかりました。こちらとしても無関心でいる訳にはいかない事件です。是非とも協力させていただきます。」

「……感謝する……」

その後、佳奈多が吉宗と共に夕飯の席に戻った頃、シャトラが酔ったはやてを締め落としていた。
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