目を逸らしていたもの

村長宅・・・

「『紅き閃光者』様、何か進展があったのでしょうか?」

「それをこれから調べますのでまた暫くは誰も近寄らせないようにお願いします。」

戻った直後、彩夏はそう言いながら部屋に閉じ籠り、ジュンから譲り受けた花の組織や分泌する成分を調べ始める。

「よしっ。花の体組織と成分の分析はこれでOK。次は………」

花の体組織と成分の分析を終えた後、彩夏はそう言いながら次の行動について、考える。

(この村にきてから三日……分析こそできても何の成果も上げれてない……)

「ッ………」

が、これまでの三日間を振り返り、自らの無力さを痛感する。

(なんでだ……なんで特効薬ができない!?ここまで分析ができてるのになんで………っ!!?)

「ッ!!」

ダァンッ!!

自らの無力さに苛立ちを覚えた彩夏は思わず壁を殴りつける。

その瞬間、壁に僅かなヒビが入り、拳も切れたのか血が少しだけ流れる。

ガタンッ!!

同時に近くの机に置いていた写真立てが床に落ちる。

コンコン

「『紅き閃光者』様!どうかされましたか!?」

直後、音を聞いたのか、村長が扉越しにそう尋ねてくる。

「ッ……大丈夫です。お騒がせしてすいません……」

そんな村長の声に冷静さを取り戻した彩夏はそう返事をする。

「そうですか……失礼しました……」

「いえいえ……こちらこそすいません……」

「では、引き続きよろしくお願いいたします……」

そう言う村長の言葉を最後に扉付近から気配が離れていく。

「……壊しちゃった壁、直さないと………」

パァァァ………

村長の気配が離れていくのを確認した後、彩夏はそう言いながら土属性の魔力を流し、ヒビが入った壁を修繕する。

(もうこれ以上は時間もかけられない……どうしたら………)

「ッ!!」

そんななか先程、自分が落とした写真立てが目に入る。

その写真立ての中には一年程前に自身も所属する、梨紗、アリシエ、夢羽との四人で六年前に結成したユニット、『メイキングシスターズ』で進めたプロジェクトが無事に成功した記念に四人で撮った写真が入っていた。

(……梨紗……)

その写真を見た瞬間、彩夏は当時、プロジェクトの進行が行き詰まった数日間、四人で頭を悩ませるなか、解決策を見つけてきた梨紗が何気なく口にしていた言葉を思い起こす。

(『一回イチからプロジェクト全体を洗い出してみたの。今までの自信からくる先入観を無くした上で徹底的にね、そしたら見つかったんだ……』)

「ッ!?」

(もしかしたら……っ!?)

「フェイ君、前に梨紗のお父さんから貰ったTウイルスと始祖花の体組織のデータと私が今、手にしているウイルスと花の体組織のデータと照合してみてくれない?」

かつての梨紗の言葉からある可能性に気付いた彩夏は六年前、友人であるアリシエが住む魔法世界、『シトラスト』で拾い、自身が開発した『異世界通信ネットワーク』に住まわせている、開発者不明のAI搭載型コンピューターウイルス、『フェイ』にそう指示する。

『了解しました(。・ω・)ゞすぐに取り掛かります。』

(私はこの三日間、この村を苦しめているのはTウイルス路線のウイルスだと思い、そのウイルスに対抗するための抗ウイルス薬を作ろうとした……)

指示を受けたフェイがデータの照合に取り掛かるなか、彩夏はそう思いながら自身の記憶と目の前にある体組織のデータを照らし合わせる。

(でも、私が知っているのはあくまで『梨紗達の世界を脅かした』ウイルスで作ってた抗ウイルス薬もそれに対応したものだ……でも………)

今、村を脅かしているウイルスは『ウェズペリアこの世界』で生まれたものあり、『地球梨紗達の世界』で生まれたものではない。

そんな言葉が彩夏の頭を過る。

(もし、実際のものが僅かでも私が知っているものと違っているなら……っ!!)

『照合が完了しました。』

不安から高鳴る鼓動を抑えながら彩夏がそう思うなか、データの照合を終えたフェイがそう報告する。

「……結果は?」

『はい。どちらも85%は適合するものの完全には一致しませんでした………』

「ッ………」

ガタンッ!!

フェイから告げられた照合結果に彩夏は全身から力が抜け、冷たくなるのを感じながら椅子にもたれ掛かるように座り込む。

「……は……はは……そっかぁ……やっぱりそういうことだったのかぁ………」

次の瞬間、彩夏は静かにそう呟きながら自嘲の笑みを浮かべる。

(冷静に考えれば、すぐにわかることだったんだ。なにせパンデミックが起きているこの村が存在するこの世界は『地球』じゃないんだから……)

『地球』とは違い、殆んどの人間は『魔力』を宿し、一般的に獣人や魔族といった『亜人』と呼ばれる異種族も『魔物』という生物もいる。

当然、動植物の生態系も『地球』とは違う。

ならば、一輪の花が生み出す細菌ウイルスだって『地球』のものとは似ても似つかない『別物』と考えるべきだったのだ。

(こんな単純なことに今まで気付かなかったなんて私は……)

「ッ……」

今まで抗ウイルス薬の開発が難航した『原因』が他ならぬ己の『慢心』だったという事実に彩夏は自己嫌悪しながら俯く。

パァンッ!!

「よしっ!落ち込むのはここまで!!」

が、己の頬を両手で赤い手形ができるほどに叩きながら、気合いを入れ直しながら立ち上がる。

(もう私には落ち込む時間なんてない!マリーさんやジュン君のお母さんのためにも!!)

彩夏はそう思いながら作業を再開した。
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