目を逸らしていたもの

「ア……アァ……」

「アァ……」

「うっ……ぐすっ……」

森の中で木を背もたれにして尻餅を着き、涙目になっている六歳くらいの茶髪の少年に対し、感染者であろう、所々に噛まれたような傷跡が目立ち、体色が完全に土色になって目が血走っているゾンビが二体、鋭くなった牙を剥き出しにしながら迫ってきていた。

「「ガアアアァァァッ!!」」

「ッ!!」

次の瞬間、二体のゾンビはそう雄叫びを上げながら飛びかかろうとし、少年は涙を流しながら思わず目を閉じる。

「させるかあああぁぁぁっ!!」

「「「!?」」」

ドカァァァンッ!!

が、悲鳴を聞いて駆けつけた彩夏がそう言って横から飛びかかりながら蹴りで一体のゾンビの首をへし折り、

「フッ!!」

ドカァァァンッ!!

「グオオオォォォッ!!」

そのままの勢いでもう一体にタックルを食らわせ吹き飛ばす。

ドカァァァンッ!!

「グオッ!?」

ドサッ!!

吹き飛ばされたゾンビはそのままの勢いで近くの木にぶつかり、その場に倒れる。

「え?」

「大丈夫!?何処か噛まれてない!!?」

突然のことに思わず呆けた声を上げる少年に対し、彩夏はそう尋ねながら駆け寄る。

「う、うん……何処も噛まれてはいないよ………」

対する少年は尻餅を着いた状態のまま、そう答える。

そんな少年の左膝からは逃げている最中にか転んで擦りむいたのか、少しだけ血が滲んでいた。

(良かった……足はちょっと怪我しているけど、感染はしていないみたい………)

「!?お姉ちゃん!後ろっ!!」

「ガアアアァァァッ!!」

駆け寄った後、片膝を着いた状態で少年の容態を確認した彩夏がそう思いながら安堵するなか、いつの間にか起き上がったゾンビが不意を突こうとしたのか、再び飛びかかろうとする。

「フッ!!」

ドカァァァンッ!!

「ガアアアァァァッ!?」

対する彩夏は振り向きながら、起き上がりながら回し蹴りを食らわせ、蹴り飛ばす。

「そこでじっとしててね。」

「あっ……」

蹴り飛ばした後、彩夏はそう言いながら少年の周りに“障壁”を展開する。

「ガアアアァァァッ!!」

その直後にゾンビは三度襲いかかってくる。

先程、回し蹴りを受けたその胸元はその威力を物語るように抉れていた。

「ッ………」

(胸が抉れても向かってくるなんて……)

パキキキ……ッ!!

そんなゾンビの様子に彩夏はそう思いながら、両拳を魔法で作り出した氷で包み込みながら構える。

「フッ!!」

ドカァァァンッ!!

「グッ!?」

次の瞬間、彩夏は襲いかかってきたゾンビに対し、カウンターで右アッパーを食らわせる。

「はあああぁぁぁーーーっ!!」

ドカッ!!ドカッ!!

「グッ!?グオッ!?」

彩夏は続けて左ストレート、右ストレートを食らわせる。

「凄い……」

「チェストォォォォォッ!!」

ドカァァァンッ!!

そんな彩夏の戦いに少年がそう言いながら見惚れるなか、彩夏はそう言いながら強烈な回し蹴りをゾンビの首筋に食らわせる。

ドサァッ!!

それが決め手になったのか、ゾンビはそのまま勢いよく倒れ込み動かなくなった。

「………」

ガサガサッ!!

「『紅き閃光者』様!!」

「大丈夫ですか!?」

あっという間に二体のゾンビを撃破した彩夏の後ろ姿に少年が呆けた表情を浮かべるなか、騒ぎを聞きつけた騎士達が駆けつけてくる。

「私は大丈夫。それよりここにあるご遺体を霊安壕へ、その子は治療してからご家族の元へ帰してあげてください。」

「!?君は『ジィール商会』の子か!?」

彩夏から指示を受けた後、少年の姿を確認した騎士がそう声を上げた。
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