目を逸らしていたもの

『霊安壕』付近・・・

村の外れに彩夏からの提案により、残された遺体を調べるために、地下に安置するために急遽造られた地下壕、通称『霊安壕』……

「ん?」

「お願いします!せめてお祖父ちゃんに大好きだったお花を供えたいんです!!」

「ダメだっ!活動していないといっても遺体の中の細菌はまだ生きている可能性が高いんだっ!!」

「対抗策となる薬ができるまでの間、万全を施した関係者以外は中に入れないよう、『紅き閃光者』様から仰せつかっている!諦めて帰りなさい!!」

そこに彩夏が赴くと、霊安壕の出入り口を塞ぐ結界の前にて一人の少女と、見張りと結界の維持のために在駐している騎士と魔法使いの男性二人が口論していた。

「どうかしましたか?」

「あっ……」

「あ。『紅き閃光者』様……」

「この子、今日、亡くなったシゲゾウさんのお孫さんなんですが、どうしてもシゲゾウさんに花を供えたいと言って聞かなくて……」

首を傾げながらそう尋ねる彩夏に対し、騎士と魔法使いはそう説明する。

「これ……お祖父ちゃんが好きだった花なの……」

そう言う少女の手には紫の花……ラベンダーが握られている。

「お祖父ちゃんが安らかに眠れますようにってお供えしたくて………」

「気持ちはわかるんだが………」

「………」

涙を滲ませながらそう言う少女に騎士は困った表情を浮かべながらそう言い、隣にいる魔法使いも困った表情を浮かべる。

「……よしっ。それならお姉ちゃんが代わりにお供えしてあげるよ。」

「!?ほんとっ!?」

「あぁ!オレも中にちょっと用があるから……」

「ありがとうっ!!」

笑顔でそう言う彩夏に対し、少女は笑顔でそうお礼を言いながらラベンダーを手渡す。

「じゃあ、まっすぐ気を付けて帰るんだぞ。」

「うんっ!!」

そうして少女は自分の家へと駆けて帰っていく。

「それじゃあオレもすぐに準備に入りますね。」

「「はいっ!!」」

その直後、彩夏はそう言いながら南側にある毒沼地帯に生息する魔蟲、『アイアンスパイダー』が吐き出す特殊な糸を主材料にし、結界魔法とバリアジャケットの技術を応用して開発した、彩夏の生まれ故郷、『地球』にあった身体全体を覆いウイルスや細菌の侵入を防ぐために造られた化学防護服に酷似した白い防護服を装着する。

「それじゃあ、行ってきます。」

「「お気を付けて……」」

そうして彩夏は少女から託されたラベンダーを手に霊安壕へと入っていった。
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