回想、十六年前、『アトラン王国』郊外、『ナナシ村』・・・

「まさか、『異界の勇者』であり現国王である一也王からの王命とはいえ、かの『人魔界大戦』の英雄の一人である『紅き閃光者』様が来てくださるとは思いませんでした……」

「……王から直接聞いたのですが、『人間がアンデッド化する』という事例がこの村を中心に起きているらしいですね……」

『アトラン王国』の郊外にある小さな集落、『ナナシ村』にて、そう言いながら自宅へと案内する村長に対し、一也から依頼を受けた彩夏はそう尋ねる。

「……『紅き閃光者』様なら当然ご存知だと思いますが、アンデッドは確かに土色をした人型をしておりますが、実態は死んだ人間が変化したものではなく大量の血と濃密な魔力を浴び、太陽光の届かない大地から発生する、云わば自然現象……」

「えぇ、その関係から生還者が少ないダンジョンから出現することはあっても人間がアンデッド化すること自体あり得ない……」

二人はそう話しながら、着いた村長の自宅に足を踏み入れる。

「仰る通りです。ですが……」

村長はそう言いながら案内した一室の扉を開ける。

「！？」

「うぅ……っ！？」

すると次の瞬間、彩夏の目に苦しそうにしながらベッドで横たわる、青色のロングヘアーに薄着をした少女が飛び込んでくる、

少女の左腕には何か獣にでも噛まれたかのような痕があり、そこから少しずつ肌が土色に変化している。

「マリー！！」

「うぅ……お父……さん……」

部屋に入った直後、駆け寄りながらそう声を掛ける村長に対し、娘である少女、マリーは弱々しそうな声でそう返事をする。

「……はじめまして。マリーさん、オレは一也王から依頼を受けた彩夏・黒原って言います。少しだけ貴女の身体を調べさせて貰えませんか？」

「彩夏様……はい……お願いします……」

マリーからの承諾を得た彩夏はマリーの現在の容態や傷の具合を調べ始める。

(熱は38℃……汗も凄くて息遣いも荒い……)

「マリーさん、何処か痒いところない……？」

「うっ……ミヤに……噛まれたところが……」

「ミヤ？」

「マリーの幼馴染みの娘です。昨日、完全にアンデッド化してしまって……」

「……その娘は今は……」

「………」

昨日、アンデッド化してマリーを襲ったというミヤの現在の所在について、そう尋ねる彩夏に対し、村長は暗い表情のまま首を振る。

「……そうですか……」

「お願いいたします、『紅き閃光者』様。どうか娘と村をお救いください……っ！！」

次の瞬間、村長は今にも死にそうな表情で深々と頭を下げながらそう懇願する。

「……最善を尽くします……」

対する彩夏は真剣な表情でそう言った。