目を逸らしていたもの

『アトラン王国』、街中・・・

カンカンッ!カンカンッ!

「……ここだね。」

「………」

その頃、朝から昨日の襲撃で破壊された建物を修復している職人達の鎚が振り下ろされる音が鳴り響くなか、はやてから巡回を兼ねた、拐われたみゆきの手掛かり探しを依頼された彩夏はそう言いながらセッテと共にはやてとみゆきがデェムシュ進化体とソロモンと戦った現場に訪れていた。

「……今のところ、怪しい反応はないね。はやての話だとソロモンはトドメを刺そうとしたデェムシュ進化体を止めてまでしてからみゆきを連れ去ったってことだからみゆきは無事だと思いたいけど……セッテ、そっちは何か見つかった?」

少し前に梨紗の父、吉田佑人から譲り受け、自ら改良を施したPDIを確認しながら彩夏はそうセッテに尋ねる。

「………」

「?セッテ?」

が、セッテは未だに暗い表情のまま俯いている。

「………」

(『セッテさん、今の貴女とノゾミさんの関係は親友とは呼べない、歪なものになっています。』

『セッテはさ、ノゾミノンたんと一緒にいて……

ノンたんを幸せにしたい?
それとも、セッテ自身が幸せになりたい?

今、セッテの中でどっちの気持ちの方が強いんだ?』

『セッテちゃんには辛いかもしれないけど、ノゾミちゃんのこと本当に好きなら、もっとノゾミちゃんの気持ちを大切にしたら?

判断の全てをノゾミちゃんに依存して、ノゾミちゃんが他の女の子と仲良くし始めたら嫉妬して泣きわめいて……。

そんなのただのわがままじゃん。自己チューじゃん。』)

昨日、ひなたに言われた言葉、『ジニア動乱』のなかで共に戦った椿勝利と村瀬理緒の二人に言われた言葉がセッテの頭の中を駆け巡る。

(ひなたさんからは『接触するな』と言われたけど……やっぱり心配だよ……ノゾミ………)

三人の言葉を思い起こした後、セッテはノゾミのことを案じる。

ピトッ!!

「!?」

「………」

そんななか、近くで様子を見ていた彩夏がセッテの右頬に紙コップを押し当てる。

中にはハーブティーが入っている。

「義母さん……あ、ありがとう……」

「そこに座ろっか……セッテ……」

「う、うん………」

紙コップを受け取った後、セッテは彩夏に促されるがままに近くにあった瓦礫に腰掛け、ハーブティーを口にする。

「……温かい……」

「少しは落ち着いた?」

ハーブティーを口にし表情が少しだけ弛んだセッテに対し、彩夏はそう尋ねながら隣に腰掛ける。

「うん……ねぇ。義母さん……」

「ノゾミのこと?」

「!?ど、どうして……!?」

自分が今、相談しようとしていた内容を言い当ててみせた彩夏に対し、セッテは目を丸くしながらそう尋ねる。

「ん~、『母親』の勘……かな……」

対する彩夏は優しい笑顔でそう言いながらセッテの頭を撫でる。

「確かに今のノゾミの状態は良くはない。けど、これはノゾミ自身が自覚し覚悟を持たなきゃいけないことなんだ。自身の行いが正しいと思っていても、見方が違えば『悪』にもなる。『悪』だと言われても自分を貫き通し、その罪を背負う覚悟が大事なんだ。」

「!?私達が………『悪』……!?」

「『正義』というものは人それぞれで違うし、助けた人達から『どうしてもっと早く来てくれなかった!?』ってぶつけられることもある……」

驚愕の表情を浮かべながらそう言うセッテに対し、彩夏は優しく諭すように言葉を続ける。

「!?どうして……」

「その被害者の多くは家族や大切な人を失って自分だけが助かった………いや、私達が来たことで『助かってしまった』が正しいか。私達の“力”を知ったことで、私達がもっと早く来てくれていれば、彼らは死なずに済んだと思ってしまう。
大切なもの全てを失ってしまったことで精神的にも追い詰められて、抑えがきかないというのもあって感情を爆発させてしまうんだ………」

「義母さん………」

少しだけ哀しそうな表情を浮かべながらそう言う彩夏の言葉に、セッテは何かを感じ取る。

「……もしかして、義母さんもそういった経験……あるの……?」

「……もう十六年くらい前……ちょうどノゾミが産まれた時期だったかな………」

恐る恐るそう尋ねるセッテに対し、彩夏はそう言いながら話し始めた。
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