揺れるココロ

「『感情に従って行動するのは人間として正しい生き方』という言葉はあるけれど、その言葉の背景にもきちんとしたルールがあってのものなの。」

「ッ………」

そう言うマリアにノゾミは思わず下を向いてしまう。

マリアからは表情こそ見えないが、身体がマリアが入ってきた時以上に小刻みに震えている。

(身体が震えている………アイデンティティの否定でもあるものね。当然よ………)

そんなノゾミを観察し、マリアは冷静にノゾミの心理を分析する。

(私達大人が気を遣い過ぎた…いえ、甘やかしすぎてしまったとはいえ、今ここで鬼にならなければ、この子はまた過ちを犯す………っ!!)

「ノゾミ、今一度よく考えてみなさい。今まで自分が何のために、何と戦い、何を考え、何を選択してきたかを………」

「……私は……」

「自分の闇から逃げてはダメよ。自覚しなさい、ノゾミ。それが今、貴女に一番必要なことよ。」

マリアはそう言いながらドアの方へと向かう。

「明日、下を向かずに周りを見てみることね。」

「………」

「……おやすみなさい。」

そう言うと、マリアは静かに部屋を出ていく。

「……下を向かずに周りを見てみる……」

マリアが出ていった後、ノゾミは俯いたままマリアが最後に言った言葉を復唱する。

(……明日、学校に行ってみよう……)

「ッ………」

そう思いながら、深夜の疲れもあってノゾミは体育座りのまま眠りに就いた。

廊下・・・

「ふぅ……やはりやり過ぎたかしらね………」

廊下に出た後、マリアは憂鬱そうにしながら、部屋の中のノゾミに気付かれないように軽くため息を吐きながらそう呟く。

(あの二人を助けたことは間違ってるとは思っていない。事実、あの二人はノゾミに救われたから今がある………でも、その事実もまた、彼女の無意識下にある傲慢さを助長させ、『前提』を凝り固まらせる要因の一つになってしまった………)

マリアはそう思いながら、今一度ノゾミの部屋を振り返る。

(今回の事件のなかでノゾミ達の『前提』を壊し、精神的に成長させる!それが今の私のやるべきこと!!今もフェイトと共に戦っている翼のためにも……)

瀕死になりながらも今も尚、『闇』と戦っている『親友』のことも想いながら、マリアは揺るがない決意を胸にセレナと共に寝泊まりしている部屋へと歩き出した。
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