揺れるココロ

「……その時の貴女の気持ちなんてひなたにも私にもわからないわ。」

(もっとも、今のようにまともな精神状態じゃなかったのは確かでしょうけど………)

「でもね、いくら心が荒んでいようが、それは貴女だけの都合でしかない。そんな貴女でも命懸けで、いや、命をなげうってでも救いだした人と後に遺されてしまったその人の家族のことを何一つ考えてない。」

そんなノゾミの言葉を無視し、マリアはその鋭い瞳の奥に憐れみの感情を隠しながら言葉を続ける。

「だから、『犬死に』なんて言葉、言えたのよね?その言葉が周りにどんな影響を与え、自分にも返ってくるのかも考えずに………」

「ッ!?」

マリアにそう言われた瞬間、ノゾミの脳裏に当時、神崎俊哉の死に対する『犬死に』発言をした自分に、遺族であり妹の神崎真由、親交のあるツキトと本家ライダージュエルを扱う仮面ライダーリベルである呼道勇騎の三人から浴びせられた憤怒の視線が甦る。

「わ、私は………っ!!」

「……そういえば、セッテとヴェルザ、あの二人は貴女がこちら側に引き入れたのよね。どうして二人を引き入れたのかしら?」

当時のことを思い出し、震え出すノゾミに対し、マリアは今度は二人とのことについて、そう尋ねる。

「それは………その………」

「二人に情が湧いたんじゃないかしら?」

「ッ!?」

「……貴女の問題点の内の二つは『情に振り回されやすい』ことと無意識で気に掛けた者を引き入れる『選民思想』よ。」

「選民……思想……?私が……!?」

マリアが自身の問題点の一つとして指摘した『選民思想』に全く自覚していなかったノゾミはショックを隠しきれずに未だに濁りきっている眼を見開く。

「私達、『時空管理局』は犯罪者を捕らえるのが仕事だけど中には事情があって悪事を働き、更生の意思がある人達もいる……」

「だ、だったら」

「でもね。そういった人達には『更生プログラム』の受講を受けてもらい、保護観察処分という形で嘱託職員として働いてもらっているわ。」

「ッ!?」

間髪入れずにそう言うマリアの言葉にノゾミはまたしても黙りこむ。

「戦場で利害の一致から共闘することはあっても、その場で命を張ってまで引き入れるような真似はしないわ。更生の余地があるとわかってもまずは逮捕して、落ち着いてから話を聞いて更生を促す。翼に言わせれば『話はベッドの上で聴かせてもらう』ね。」

「………」

「誰かが感情のままに動けば、時折戦況が混乱することがある。その結果、被害が増大することだってある。」

「!?」

続けて口にしたマリアの言葉にノゾミは学園で同級生の命を目の前で奪ったノイズへの怒り、ディリンクに変身して戦っていた月音をディケイド、門谷士と誤認して向けてしまった敵意から暴走し結果、学園に更なる被害を与え、フェイトを負傷させてしまった時のことを思い起こす。

「ノゾミ。セッテとヴェルザを引き込んだ時、果たしてその時、その場で命と時間をかけてやらなければいけないことだった?身柄を押さえて後でじっくりと話をすることはできなかった?」

「わ、私は………」

(私は……全部、間違っていたの……?)

そんななか、そう尋ねるマリアの言葉に、そんな考えが過ったノゾミは言い淀んでしまう。

「答えられないのね………それもまた、貴女の問題点よ。」

「ッ!?」

「情に振り回されやすいから、冷静に周りの状況を観て判断することができていない。ぐっちゃぐちゃになっている感情に呑み込まれて、冷静に物を言えなくなっている今みたいにね。」

そんなノゾミに対し、マリアは更にそう指摘した。
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