蝕む闇

「いや、だから僕は……」

「もうっ、いつまで躊躇ってんの。」

「こういったことからちゃんとしてかないと、仲直りできないでしょ。」

『ジニア動乱』で仲違いしたままなのを気にしているのか、自分は躊躇しているツキトに対し、レイラとアキはそう言いながら、引っ張りながらノゾミがいる部屋に向かう。

「なんで今のタイミングで罰なんか与えたんだ!!?」

「「「!?」」」

そんななか、貴利矢の怒鳴り付けるような声が聞こえてくる。

「え?今の声って……」

「貴利矢さん?」

「一体何が……」

三人はそう言いながら、角の影に隠れながら声が聞こえた方を見る。





「今のノゾミに今の“力”は相応しくない。目先の情報だけで多くの犠牲を出して、その罪を背負おうとしない………目を背けている。」

「……梨紗さん?」

「一体何を話して……?」

「ッ……」

怒鳴り付けてきた貴利矢に冷静にそう指摘する梨紗にアキとレイラが首を傾げながらそう言うなか、『ジニア動乱』のなかでノゾミが引き起こしてしまった数々の『悲劇』を知っていたツキトは暗い表情を浮かべる。

「今回だってそう。あの子はただ感情に呑まれて、状況を録に把握せずに“力”を振るった………」

「だからって」

「今回の被害は半分はあの子が暴れたことによる二次被害よ。おまけにディリンクをディケイドと思い込んで攻撃を仕掛けて状況を混乱させた………その結果、デスガンの新しい“力”に追い込まれていたフェイトにフォローをさせ、痛恨の一撃を受ける事態に陥らせた………」

「「「!?」」」

冷静に、冷淡に述べる梨紗の言葉に、立ち聞きしていた三人は凍りつく。

そんな三人の存在に気付かずに梨紗は更に告げる。

「今のあの子は『護る』ために戦っていない。一つの感情に囚われ、可能性を大きく狭めている………」

「だから、罰を与えたって言うのか!?」

「今、ここであの子の『負の流れ』を食い止めないと、あの子はまた同じ『悲劇』を繰り返す……今度はこの世界を滅ぼしてしまうわよ………」

「「「「!?」」」」

「あの子に私怨は全くないと言えば嘘になる。でも、同時にあの子は大切な友人の娘であり、これからも見守っていきたい妹弟子のようなもの……だからこそ、『ジニア動乱』の時と同じ過ちを繰り返させたくない。それを止めるためにも私は『創世龍』として罰を与えた……ただそれだけよ………」

「ノゾミちゃんが……」

「この世界を……」

「ッ……」

哀しみが混ざった真剣な表情でそう言う梨紗の言葉にアキとレイラがショックを受けているなか、ツキトは辛い表情を浮かべる。

ガンッ!!

「「「「「!?」」」」」

「くっ……」

そんななか、サマエルデスガンとの戦いの後、密かに勇華メモリを媒介に実体化した千景が廊下の奥から壁にもたれかかりながら現れる。

「あんたは……」

「千景、貴女は動いてて大丈夫なの?」

「えぇ……デスガンの最後の一撃を食らう直前にフェイト英華姉さんがリンクを切っていたみたいだったから『私達』は食らわずに済んだわ………」

「そう……あの子らしいわね……」

「梨紗姉さん、英華姉さんは……」

「大丈夫。予断は許さない状況ではあるけど、一命は取り留めたわ……」

「そう……あの子は?」

「英華と同じ部屋。今さっき、目を覚ましたわ。」

フラフラながらもその瞳に怒りを宿らせながらそう尋ねる千景に対し、梨紗は二人がいる部屋を指差しながらそう答える。

「そう……ありがとう……」

対する千景はそう言いながら部屋に向かおうとする。

ポスッ……

「「「「「!?」」」」」

「………」

が、その千景を梨紗が後ろから抱き締めて一旦は止める。

「梨紗、姉さん?」

「ありがとう千景。貴女が英華のことを特に想ってくれているのは知ってる。だから感謝してるし、怒るのもわかる。でも、忘れないで。今は兎も角、いずれはあの子の“力”が必要になるということを……」

「……わかったわ……」

後ろから抱き締められ、優しく諭されたことで落ち着いたのか、千景は瞳に宿らせていた怒りの感情を鎮めながらそう答える。

その答えを聞いて安心した梨紗は離し、千景はそのまま部屋へと入っていく。

「それが『吉田梨紗』としての『本当の姿』か……」

「さぁ?どうですかね?」

「へっ!良いノリしてるな。あんた……人妻じゃなきゃ一回、茶にでも誘いたいくらいだ……」

「おあいにく様。私はヒナタ君一筋ですから。」

その後、茶化すようにそう言う貴利矢に対し、梨紗は笑顔でそう受け流す。

「あの……梨紗、さん……」

「さっきのノゾミちゃんがこの世界を滅ぼしてしまうかもしれないって話……本当なんですか?」

「「!?」」

そんななか、ツキトと一緒に立ち聞きしていたアキとレイラがおずおずとそう尋ねる。

「おまえら……聞いてたのか……」

「はい……」

「それでその……本当なんですか?さっきの話……」

そう言う貴利矢にレイラがそう言うなか、アキは再度そう尋ねる。

「……本当よ。今のままじゃ彼女は『また』道を踏み外してしまう……」

「「!?」」

対する梨紗は再び冷たい雰囲気でそう答え、アキとレイラはショックを受けてしまう。

「詳しい話はツキトに聞きなさい。」

「おまえも腹を括れ。思うところがあるだろうが、そうしている内に失ったら、何も出来なくなるぞ。」

「……わかりました。行こう、二人とも。」

「……うん……」

「しっかり説明してもらうわよ。ツキト。」

そうしてツキト達三人はその場を後にする。

「……ツキトにも私が言おうと思ってたんですが?」

「何も一人で憎まれ役を買う必要ないだろ。」

そんな三人を見送った後、そう言う梨紗に対し、貴利矢はそう言った。
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