6.からくれない
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「うーん!いい天気!紅葉も綺麗!」
ユキちゃんが大きく腕を空に伸ばして言った。
私も空に向かってぐーんと腕を伸ばす。
秋の柔らかな陽射しが降り注ぐ中、くノ一教室の子たちと一緒に紅葉狩りに訪れていた。
紅葉が見渡せる開けた場所に敷物を広げ、山本シナ先生が点てたお茶をくノ一たちと一緒に嗜む。
赤や黄色の色鮮やかな紅葉が山一面を彩っている。
隣に座るおしげちゃんがうっとりした表情で言った。
「しんベヱさまにも見せたいです」
「そうねぇ。でも、しんベヱの場合は紅葉より茶菓子って感じだけどねぇ」
トモミちゃんとおしげちゃんの会話が微笑ましかった。
暖かな日差しに秋の涼しい風がそよぎ、紅葉が揺れて紅い葉が一枚二枚と、散っていく。
その光景が刹那的で、綺麗で、心に惹き付けられた。
こんな穏やかな気持ちになったのは何時ぶりだろう。
半月前までは、どこに行くあてもないまま漂っていた。
どうしようもない不安と悲しみしか、なかった。
それが、今ではこんなに温かく優しい人たちに囲まれている。
幸せだな。
そう、改めて思った。
「ねぇ、詩織さん。ちょっと山の中歩きませんか?」
「うん」
ユキちゃん、トモミちゃん、おしげちゃんに誘われて山の中を散策することにした。
森の中はまるで紅葉の絨毯が埋め尽くされているみたいで、辺り一面秋色だ。
落ちている葉を一枚ずつ拾ってみる。
どれも一部が黒ずんでいたり、虫食いがあったり。
あ、
その中から二枚ほど、綺麗なままの小さな紅葉の葉を見つけた。
それを日の光に透かしてみる。
・・・・・・土井先生は、紅葉をもらったら秋を感じるかな?
まるでいたずらっ子のように、私はそんなことを思った。
普段誰かのために動いてしまう人だから。
きっと季節も感じてるようで感じてないんだろうな、と。
持ってきていた懐紙に、その紅葉をそっと包んだ。
◇
忍術学園へ戻ると、校庭をランニングしている忍たまの姿があった。全学年が走っているようだ。
「まーた、やってる」
「きっとまた学園長の思いつきですよ。マラソン大会とかじゃないですか?」
校門前で立っていた土井先生に尋ねてみると、トモミちゃんの言葉通り学園長の思いつきで、マラソン大会が開かれていたようだ。
「私は明日の授業の準備をしたいのに…くう!」
紛糾している土井先生に「代わりましょうか?」と聞いたが、「遠くまで行って疲れてるでしょうから、私のことは気にせず休んでください」と笑顔を向ける。その笑顔が少し疲れているのは私にも分かった。
そのとき、敷地の遠くから、小松田さんが私の名を呼びながら走ってくるのが見えた。
「詩織さーーん!!」
小松田さんから何かが落ちたかと思えば、大きな爆発音が響いた。
「小松田君!!火種のついた宝禄火矢を投げるんじゃなーい!!」
どうして小松田さんが宝禄火矢を持っていたかは分からなかったけれど、マラソン大会が終わったあと、黒焦げパンダ状態の小松田さんと一緒に、私は後片付けをする羽目になったのだった。
「そういえば紅葉狩りどうでした?」と小松田さん。
「紅葉が綺麗で楽しかったですよ」
「いいなぁ。僕は教員補助じゃないからなぁああ。いいなぁああ」
あまりにも羨ましそうな眼差しを向ける小松田さんに、とばっちりを受ける前に、何とか機嫌を直してもらおうと思考を巡らせた。
「じゃあ、今度のお休みに一緒に行きますか?」
「そういうことじゃなくて〜、『教員補助』として…ううん『忍』として行きたいんだよね!」
小松田さんの言葉に、忍び装束を着た人たちが紅葉を眺めている風景を想像してみるけれど、違和感しかない。
「……忍で紅葉狩りはしないんじゃないですか?」
「それもそうだね。じゃあ今度の休みに行こうか」
「でも、事務員二人とも不在で大丈夫でしょうか?」
「それなら吉野先生も誘って一緒に行こうよ!」
答えになっていない返答に困惑しながら頷いた。
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