26.この先もずっと
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《エピローグ》つどい設定あり
第三協栄丸さんから、魚が大量に取れたのでおすそ分けしてくれると連絡があり、私は詩織さんと海に来ていた。
準備するから待っていてくれと言われ、詩織さんと浜辺を歩く。
「裸足で歩いたら楽しそうですよね?」
すぐさま詩織さんが草履を脱ぎ、その白い華奢な足で砂浜を一歩一歩進むたびに、柔らかい砂の感触が足跡となって残る。
彼女が波打ち際へ近づき、水をかき分けるたびに、小さな水しぶきが足元を飾った。
「半助さん、気持ちいいですよ」
彼女の楽しそうな声に誘われて、私も草履を脱いでみる。冷たい波が足を撫でる感覚が新鮮だった。
「こんなに気持ち良かったら、子どもたちも連れてくれば良かったですね」
「今日はきり丸たちが運ぶのを手伝いに来てくれますから」
「きり丸君たちも、もう卒業して三ヶ月なんですよね」
「ええ……私が忍術学園を辞めてからも、ちょうど三ヶ月です」
私たちは波の音に耳を傾けながら、少しの間、静かに歩く。
「私が辞めたこと、怒っています?」
詩織さんが立ち止まって、こちらを振り向く。
「いいえ、全く」
私は砂浜に腰を下ろすと、彼女も近くに座った。波の音が私たちの間をやさしく駆け抜けていく。
「ずっと、半助さんに添い遂げるとお約束しましたよ?」
「そうでしたね」
波の音が静かに私たちの間を駆け抜ける。
彼女の言葉が、私の心に深く染み渡っていくのを感じた。
ふと視線を彼女に向けると、色白い肌が日の光を柔らかく反射していて、その美しさに息をのむ。
「詩織さん」
「なんですか、半助さん」
「半助という名前は、忍術学園で働き始めたときに山田先生から頂いた名前なんです。半人前だから半助。本当の名は――と言うんです」
本当の名を彼女に告げると、彼女が一瞬息を止めるのが分かった。
迷っていた想いを、言葉にして告げる。私はもう土井半助と名乗る資格があるのだろうか、と。
「忍術学園の教師を辞めた私はもう……「なに言ってるんですか、半助さん」
詩織さんは、ふわりと微笑み、真剣な眼差しでこう言った。
「半助さんの新しい人生はそこから始まってるんですよ?もちろんご両親から頂いた名前も素敵だと思います。けれど、もし迷っているようなら、私は土井半助という人を好きになったと胸を張って言いますから」
まるで啖呵を切るように言い放つ姿に、つい吹き出してしまった。
「もう、なに笑ってるんですか!私は真剣に…」
「ごめん、でも嬉しくて……そうだな、私はこれからも土井半助だ」
背中を押してくれる彼女の言葉は、私を力強く行くべき方向を指し示してくれる。
そんな小さな手のひらに、これまで何度救われてきたことだろうか。
「土井先生ー!詩織さーん!」
きり丸の声が浜辺に響く。身長がすっかり伸び、十六になった彼は忍者として躍進している。
あの長屋にはきり丸が今も住んでいるが「僕だって任務で家を空けることもあるんですから、先生と詩織さんがたまに来て空気の入れ換えをしてくださいよね」と小言も多いが。
「きり丸くん、無茶してない?ちゃんとご飯食べてる?」
「もう詩織さん、僕だってもう十六ですよ?いつまでも子ども扱いしないでいいのに」
「なに言ってるの。私にとったらきり丸君は可愛い弟のようなものなんだから。あ、お母さんでもいいわよ?ほら、おいで!」
詩織さんの明るい声に、きり丸が少し照れくさそうにしながら駆け寄るのを眺めていた。
波の音だけが静かに繰り返し、空気には夏の名残と潮の香りが溶け込んでいる。
ふいに風が止み、浜辺が一瞬静けさに包まれた。
空は茜色と藍色の境目を曖昧に溶かしながら、どこまでも広がっている。
そんな夕凪の静けさを胸に抱えながら、不思議な感覚が胸に広がるのを感じていた。
迷いや不安が波の音とともに遠くへ運ばれ、心はただ静かな幸福に包まれる。
――波の音がささやく静けさのように、詩織さんとともに穏やかな未来を紡いでいきたい、と。
終
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