25.きみがため
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夕闇に浮かび始めた月を眺めながら、腰に提げていた竹筒に口に含む。
すでに周囲はひっそりと静まり返り、鳥の鳴き声も微かに聞こえる程度だ。
あの娘を攫って、私は何を期待していたのだろう。
先ほどまで腕に感じていたあの娘の感触を確かめるように、手のひらを握って見たけれど分からなかった。
「組頭!」
「どうした、尊奈門」
「なんで詩織さんにあんなことを…?」
「……なんでだと思う?」
「え?私が答えるんですか?えーっと……組頭も詩織さんが好きだから、とか?」
「フン…好き、か」
第三者からそう見えていたならそうなのだろうか。だがあの娘は初めから土井殿のものだ。きっとあの男はもう娘を手放すようなことはしないだろう。あの男の目が鋭くなるさまが思い浮かぶ。私が次に、あの娘を奪おうとすれば、その刃先は迷わず私を向くのだろう。
『……竹筒の中、空なんですよね?いま、入れますよ』
自分から厄介事に首を突っ込みそうな、危うい存在の娘に、どうしてこうも胸が騒ぐのか。
だがこの気持ちは今ならまだ、捨てることができる。
「尊奈門、言っただろ。忍者に恋だの愛だの、不要な存在でしかないんだと」
「それでも、私は詩織さんのことを諦めるわけにはいきませんっ!」
「やはりまだ若いな」
「え?どういう意味です?」
「無謀で、愚かで……まあ、お前には似合っている。だがあの娘は土井殿を選んで毒薬さえ飲んだ女だ。お前に勝ち目はない」
「ガハっ!そ、そんな直球に言わなくても!」
月光を浴びた竹林を見上げ、笑いが込み上げる。
「尊奈門。忍者に不要だと言ったのは恋の話だが、一つだけ教えておく」
「なんですか?」
「恋とは、無駄でありながらも、時に何よりも強い。だが、それが分かるのはお前がもう少し歳を取ってからだ」
尊奈門は不満そうに口を開きかけたが、押し黙った。それは私の眼差しに含んだ何かを感じ取ったからなのだろうか。
「あの娘も、土井殿も、分別のある大人だ。二人の仲を邪魔するんじゃない。だが……まあ、若いというのは時に、救われることもある。今はそれでいいだろう」
尊奈門は大きなため息をつきながら空を見上げる。
頭上には月が煌々と、全てを照らしている。まるで、どこかの二人を祝福しているかのように。
→
すでに周囲はひっそりと静まり返り、鳥の鳴き声も微かに聞こえる程度だ。
あの娘を攫って、私は何を期待していたのだろう。
先ほどまで腕に感じていたあの娘の感触を確かめるように、手のひらを握って見たけれど分からなかった。
「組頭!」
「どうした、尊奈門」
「なんで詩織さんにあんなことを…?」
「……なんでだと思う?」
「え?私が答えるんですか?えーっと……組頭も詩織さんが好きだから、とか?」
「フン…好き、か」
第三者からそう見えていたならそうなのだろうか。だがあの娘は初めから土井殿のものだ。きっとあの男はもう娘を手放すようなことはしないだろう。あの男の目が鋭くなるさまが思い浮かぶ。私が次に、あの娘を奪おうとすれば、その刃先は迷わず私を向くのだろう。
『……竹筒の中、空なんですよね?いま、入れますよ』
自分から厄介事に首を突っ込みそうな、危うい存在の娘に、どうしてこうも胸が騒ぐのか。
だがこの気持ちは今ならまだ、捨てることができる。
「尊奈門、言っただろ。忍者に恋だの愛だの、不要な存在でしかないんだと」
「それでも、私は詩織さんのことを諦めるわけにはいきませんっ!」
「やはりまだ若いな」
「え?どういう意味です?」
「無謀で、愚かで……まあ、お前には似合っている。だがあの娘は土井殿を選んで毒薬さえ飲んだ女だ。お前に勝ち目はない」
「ガハっ!そ、そんな直球に言わなくても!」
月光を浴びた竹林を見上げ、笑いが込み上げる。
「尊奈門。忍者に不要だと言ったのは恋の話だが、一つだけ教えておく」
「なんですか?」
「恋とは、無駄でありながらも、時に何よりも強い。だが、それが分かるのはお前がもう少し歳を取ってからだ」
尊奈門は不満そうに口を開きかけたが、押し黙った。それは私の眼差しに含んだ何かを感じ取ったからなのだろうか。
「あの娘も、土井殿も、分別のある大人だ。二人の仲を邪魔するんじゃない。だが……まあ、若いというのは時に、救われることもある。今はそれでいいだろう」
尊奈門は大きなため息をつきながら空を見上げる。
頭上には月が煌々と、全てを照らしている。まるで、どこかの二人を祝福しているかのように。
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