25.きみがため
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家族を失いたくない。
彼のその切ない祈りは、私の祈りでもある。遠い親戚の家に引き取られ、そこで生活していたときから、彼らとは『本当の家族ではない』んだと自己防衛していた。一度、心のつながりの深い家族を、突然理不尽に奪い取られた私にとって、失った悲しみも絶望も、もう二度と味わいたいものではなくて、だから『大事な人』という存在を求めていながら存在を失うことが怖かった。また理不尽に取られるのではないか。私の気持ちも無視して。
半助さんが柔らかな笑みを涙を流しながら向ける。
彼の端正な顔立ちに、会えることのない彼の母親を想像する。
半助さんのお母様、あなたの息子は沢山の人に幸せと心にぬくもりを与えてくれています。
心の中で引っかかっていた『半助さんに相応しい相手は私なんかじゃない』という思いがいつの間にか崩れていた。私を支えられるのは半助さんだけで、彼を支えられるのも私だけなんだと、強く思った。
髪に顔を埋める彼が「なんであんな短歌を残したんですか」と呟く。
『人の世の 夢と知りつつ 守られし その日々こそが 形見なりけり』
そう筆を取った。せめて半助さんに想いを残したかった。私という存在を忘れてほしくなかった。ただの自己満足だった。すぐに見つからないように、きり丸くんに託して。
「……さすが先生です。見つからないと思ってました」
「少しでも詩織さんがどこに行ったのか突き止めたかったんです。糸を解いてしまってすみませんでした」
「私は……」
それでも胸の中で何度も思い出される言葉たち。
「親戚の家でずっと言われてきたんです。災いの元凶で、いなくなった方がいいって……気にしないようにしていたんです。でも、半助さんを幸せにできないような気がしてしまって…」
どんなに忘れようと思っても、言葉と親戚の表情を思い出してしまう。
私はきっと、彼の幸せに邪魔な存在なんだと。
「ずっと言われ続けてきて、そういう存在なのかもしれないって」
「……詩織さん」
半助さんが抱き締める腕を強める。
「私の幸せは詩織さんなしでは有り得ないんです。あなたの優しさが、ぬくもりが、存在が、私の幸せに繋がっているんです」
「半助さん…」
「それに、私も同じようなことを考えていました。私は詩織さんに相応しくないのではないかと。私は忍者ですからまた貴女に危険な目に遭わせてしまうのでは無いか。ここよりも安心で心休まるところがあるんじゃないかって」
「そんなこと…!私だって半助さんがいない生活なんて…!」
そこまで言いかけて思い出す。半助さんを忘れようと利吉さんに迫ったことを。
「あの、私……利吉さんに…」
「うん、利吉くんから聞いてるよ」
「……ごめんなさい」
顔を上げた半助さんの表情は、どこか笑みを帯びているように見えた。
彼が私の肩にそっと手を置く。
「でも私のことが忘れられなかったんだろ?」
「ええ……もしかして、喜んでます?」
その口調はどこか喜んでいるように見えるのは確かだった。
自分以外の人とキスをした。もっと悲しんだり、怒ったりするのかと身構えていた私はびっくりした。
半助さんは、そんな私をしげしげと眺める。
「もちろん、だって利吉くんの方が顔が良いし、積極的だし…でも、私のことがそんなに忘れられなかったんだね?」
「半助さんだって顔が良いですよ?それに二人きりのときは積極的じゃないですか」
「そうかな?」
「そうです」
和やかな口調の半助さんだけれど、見つめ合う視線には色欲が隠れているように見える。
「でも、私だって嫉妬はしている」
「そう、で……っ……んん……ッ」
顎をくいっと持ち上げられ、彼は自分の唇を私に重ねた。
布越しじゃないキスは違うでしょ?とでも言うように何度も角度を変えてキスを繰り返す。
半助さんの胸板に手を添えて、キスを受け入れる。
(……優しいキス)
利吉さんとのキスで感じた切なさがない。私は半助さんが大好きなのだとより実感した。
唇を割って彼の舌先が侵入する。絡み合った舌の感触に、安心と疼きが生まれる。
彼の手が私の後頭部に添えて、ゆっくりと床へ誘う。
唇を離し、抱き合いながら互いの呼吸音に耳を傾けていた。
お互いのぬくもりが混ざり合って溶け合うように、隙間もないほど身を寄り添う。
半助さんから洩れる吐息は大人の魅惑があって、耳がじわっと感じた。
「詩織さん」
名前を呼ばれ、彼の顔を覗き込む。
クスッと笑みを零す彼が目の前にいる。
「どちらのキスがお好きでしたか?」
「~~っもう」
分かっていながらそんな質問をする彼に、耳が熱くなる。
「……分かってますよね?」
「う~ん、ほら利吉くんのキスも特別感があったみたいだし」
「半助さんが……一番です…ほら、ニヤけてるじゃないですか、もう…!」
「だって、ねえ?詩織さんがそんなに私を好きだって」
半助さんが私を抱きしめる。床に寝転んだ私たちは、隙間から入り込む月明かりだけが部屋を照らした空間でお互いの体温を感じていた。
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彼のその切ない祈りは、私の祈りでもある。遠い親戚の家に引き取られ、そこで生活していたときから、彼らとは『本当の家族ではない』んだと自己防衛していた。一度、心のつながりの深い家族を、突然理不尽に奪い取られた私にとって、失った悲しみも絶望も、もう二度と味わいたいものではなくて、だから『大事な人』という存在を求めていながら存在を失うことが怖かった。また理不尽に取られるのではないか。私の気持ちも無視して。
半助さんが柔らかな笑みを涙を流しながら向ける。
彼の端正な顔立ちに、会えることのない彼の母親を想像する。
半助さんのお母様、あなたの息子は沢山の人に幸せと心にぬくもりを与えてくれています。
心の中で引っかかっていた『半助さんに相応しい相手は私なんかじゃない』という思いがいつの間にか崩れていた。私を支えられるのは半助さんだけで、彼を支えられるのも私だけなんだと、強く思った。
髪に顔を埋める彼が「なんであんな短歌を残したんですか」と呟く。
『人の世の 夢と知りつつ 守られし その日々こそが 形見なりけり』
そう筆を取った。せめて半助さんに想いを残したかった。私という存在を忘れてほしくなかった。ただの自己満足だった。すぐに見つからないように、きり丸くんに託して。
「……さすが先生です。見つからないと思ってました」
「少しでも詩織さんがどこに行ったのか突き止めたかったんです。糸を解いてしまってすみませんでした」
「私は……」
それでも胸の中で何度も思い出される言葉たち。
「親戚の家でずっと言われてきたんです。災いの元凶で、いなくなった方がいいって……気にしないようにしていたんです。でも、半助さんを幸せにできないような気がしてしまって…」
どんなに忘れようと思っても、言葉と親戚の表情を思い出してしまう。
私はきっと、彼の幸せに邪魔な存在なんだと。
「ずっと言われ続けてきて、そういう存在なのかもしれないって」
「……詩織さん」
半助さんが抱き締める腕を強める。
「私の幸せは詩織さんなしでは有り得ないんです。あなたの優しさが、ぬくもりが、存在が、私の幸せに繋がっているんです」
「半助さん…」
「それに、私も同じようなことを考えていました。私は詩織さんに相応しくないのではないかと。私は忍者ですからまた貴女に危険な目に遭わせてしまうのでは無いか。ここよりも安心で心休まるところがあるんじゃないかって」
「そんなこと…!私だって半助さんがいない生活なんて…!」
そこまで言いかけて思い出す。半助さんを忘れようと利吉さんに迫ったことを。
「あの、私……利吉さんに…」
「うん、利吉くんから聞いてるよ」
「……ごめんなさい」
顔を上げた半助さんの表情は、どこか笑みを帯びているように見えた。
彼が私の肩にそっと手を置く。
「でも私のことが忘れられなかったんだろ?」
「ええ……もしかして、喜んでます?」
その口調はどこか喜んでいるように見えるのは確かだった。
自分以外の人とキスをした。もっと悲しんだり、怒ったりするのかと身構えていた私はびっくりした。
半助さんは、そんな私をしげしげと眺める。
「もちろん、だって利吉くんの方が顔が良いし、積極的だし…でも、私のことがそんなに忘れられなかったんだね?」
「半助さんだって顔が良いですよ?それに二人きりのときは積極的じゃないですか」
「そうかな?」
「そうです」
和やかな口調の半助さんだけれど、見つめ合う視線には色欲が隠れているように見える。
「でも、私だって嫉妬はしている」
「そう、で……っ……んん……ッ」
顎をくいっと持ち上げられ、彼は自分の唇を私に重ねた。
布越しじゃないキスは違うでしょ?とでも言うように何度も角度を変えてキスを繰り返す。
半助さんの胸板に手を添えて、キスを受け入れる。
(……優しいキス)
利吉さんとのキスで感じた切なさがない。私は半助さんが大好きなのだとより実感した。
唇を割って彼の舌先が侵入する。絡み合った舌の感触に、安心と疼きが生まれる。
彼の手が私の後頭部に添えて、ゆっくりと床へ誘う。
唇を離し、抱き合いながら互いの呼吸音に耳を傾けていた。
お互いのぬくもりが混ざり合って溶け合うように、隙間もないほど身を寄り添う。
半助さんから洩れる吐息は大人の魅惑があって、耳がじわっと感じた。
「詩織さん」
名前を呼ばれ、彼の顔を覗き込む。
クスッと笑みを零す彼が目の前にいる。
「どちらのキスがお好きでしたか?」
「~~っもう」
分かっていながらそんな質問をする彼に、耳が熱くなる。
「……分かってますよね?」
「う~ん、ほら利吉くんのキスも特別感があったみたいだし」
「半助さんが……一番です…ほら、ニヤけてるじゃないですか、もう…!」
「だって、ねえ?詩織さんがそんなに私を好きだって」
半助さんが私を抱きしめる。床に寝転んだ私たちは、隙間から入り込む月明かりだけが部屋を照らした空間でお互いの体温を感じていた。
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