4.ふがいない優しさ
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「というわけで、しばらくの間、雪下さんが授業を見学しているから真面目に授業を聞いてるように!いいか!真面目にだぞ!」
一年は組の授業が始まり、私は一番後ろで授業を聞いていた。子どもたちは私の存在が気になるのか、授業中に何度も振り向くのだが、その度に土井先生に注意されていた。
「穏行の術を確認するぞー!分かる者はいるかー?庄左ヱ門、答えてみろ」
当てられた庄左ヱ門君が立ち上がる。
すらすらと答える姿が可愛らしくも頼もしく見える。
「この術の注意点は分かるかー?なんだ?誰も分からないのか?じゃあ質問でもいいぞ〜」
土井先生がそう言った途端、「はいはいはーい!!」とみんなが元気よく手を挙げた。
「先生質問です!詩織さんには何て口説いて教室まで連れて来たんですか!」
「先生!僕たちも詩織さんから棒術習いたいです!」
「詩織さんって彼氏いるか聞いて来いって上級生に言われましたー!」「僕も僕も!」「私も!」
「授業の質問に決まってるだろ〜!!!…っていうか上級生も一年生を使って聞くなよな…ったく」
叫んだかも思えば溜め息混じりで落胆している。
そこにしんベヱ君が「じゃあ先生は詩織さんに彼氏がいるか気にならないんですかー?」といつもの調子で尋ねたが、彼は光の速さで「今は授業中だ!!」と叫ぶのだった。
休み時間に団蔵君が先ほどの質問を再び私に向けた。
「で、彼氏っているんですか?」
「いないけど…誰に聞いて来いって言われたの?」
私が答えると、あとはは組の子たちが話を発展させていくので、その光景を眺めていた。
「団蔵って会計委員会だろ?まさか潮江先輩がか?」
「僕は食満先輩から聞いてきてって言われてるよー!」
「私は伊作先輩から…」
「もう!六年生なら直接聞けばいいのにね!」
「いや、聞くのは逆にハードルが高いんじゃないか?僕たち一年生はピュアだからね」と庄左ヱ門君。
「よぉーし!一年は組で先輩達から聞き取り料を徴収しよう!」
きり丸君が拳を突き上げ、みんなが一致団結したところで土井先生が彼の頭を出席簿でトンと叩いた。
「こお〜らお前たち!次は実技だろ!山田先生が待ってらっしゃるぞ!!」
「「「わ〜〜!!!」」」
蜘蛛の子を散らすように、子どもたちは教室から飛び出していった。
「やれやれ…騒がしくてすみません…」
土井先生が一息ついて、肩を軽く落とした。
「いえ、賑やかで楽しいですよ」
私は微笑んで答える。
子どもたちが活発なのは、むしろ忍術学園らしいなと思う。
「授業もあれくらい熱心だと助かるんですが…」
土井先生は少し笑い、少し照れくさそうな表情に、私もつい笑みをこぼした。
「ふふ…確かに、でもきっと成長していくんじゃないですか?土井先生のおかげで」
「そうだといいんですけどね」と土井先生が言ったとき、ふと目が合ったが、すぐに私は視線を外した。気まずいわけではないけれど、妙にドキドキしてしまった。
「このあと、宿題の作成をするので手伝ってもらえますか?」
「いいですよ。さすが利吉さんのお目付け役ですね」
会話をしながら階段を降りていく。
「ははは。利吉くんも一筋縄ではいかなさそうだな」
「なにがです?」
「いや、利吉くんも大変だなぁと思ってね」
「あ!もしかして昨日の利吉さんの話ですか?土井先生まで私を年下扱いなさるんですか?」
少しムキになって問い返すと、土井先生は少し戸惑ったような表情を浮かべた。
「いや、そういうわけじゃないですよ……でも、雪下さんは実際私より年が下ですよね?」
「そ、そうですけど……!」
たしか、きり丸君から土井先生の年齢は25歳だと聞いたことがある。私は22歳なので、確かに少し年下ではあるけれど、そう扱われるのは少し悔しい。
「まあ、利吉くんも元服してますし、立派なフリーのプロ忍者ですし…」
そう言いながら、土井先生は私を見つめる。
「雪下さんこそ、利吉くんをもっと頼ってはどうですか?」
私は少し眉をひそめ、彼の言葉を考えた。確かに、利吉さんはすごく頼りになるけれど、そんなにしょっちゅう頼るわけにはいかない。
「うーん…確かに利吉さんは頼りになるけど、そんなに頻繁にお願いするのも気が引けますし…」
「そんなに遠慮しなくてもいいと思いますよ。彼は雪下さんを助けたいって思ってるはずですし」
「そう、なんですか?」
「ええ」
頬が熱くなるのを感じていると職員室に辿り着いた。
つい、忍術学園にいると大人だからちゃんとしきゃ、と肩の力を張っていたことに気付く。
それと同時に、目の前にいる土井先生はどうなのだろうと考えてしまった。
「では、雪下さんには山田先生の机でこの書類を書いてもらえますか?」
山田先生の机を指さし、そこに書類や筆を置いていく。
指示された通りに私はそこに座り、準備を整える。
ふと、視線を横に向ける。
すでに正座をして筆を握っている土井先生の姿があった。
「土井先生こそ、私に頼っていいんですからね?」
気付けばつい思ったことを口にしていた。
土井先生が筆を止めて、私に視線を向ける。
「さっきの話の続きです。私も利吉さんを頼りますから、土井先生も私を頼ってくださいね?」
土井先生は目を見開き、そして諦めるように笑った。
「はは・・・・・・やっぱり敵わないなあ。わかりました。では、ここにある宿題もお願いしちゃいますよ?」
「ええ、もちろん」
土井先生の砕けた言い方に、なんだか嬉しいと感じた。
少しだけ、距離が縮まったような気がした。
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