20.待ってるから
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尊奈門の無謀な恋を傍から見るのは愉快だった。
彼が土井半助にムキになり、挑もうとする姿勢には成長の兆しと見ていた。あえて放任していたのは、土井半助という一流の忍者ならば、恋愛にうつつを抜かすような愚行はしないという確信があったからだ。
だが、どうやら土井殿は詩織という娘と恋仲らしい。
土井先生ともあろう者が、恋などに興じるとはなと苦笑する。
恋など、バカバカしい。
それは忍者には不要なものでしかない。
人に弱みを握られるような感情を、なぜ彼が手にする?
その答えを知ることに、少しばかり興味が湧いたのもまた事実だった。
あの娘は人に対して警戒心がないのか?それとも何か企んでいるのか?土井殿が何か指南しているのか?
尊奈門は過去に娘の棒術に破れたのだと聞いたが、おそらく尊奈門は油断をしていたのだろう。
忍者隊に戻る道中、娘が入れた雑炊をストローで吸う。声をかける直前、娘が鍋に向かって何やら手のひらを動かす仕草をしていたのだが特に毒のようなものは感じなかった。
視線を下にいる尊奈門に向ける。
大晦日、忍者隊に戻ってきた彼は突然「組頭!私は恋愛においても土井半助に打ち勝ちます!」と言い出したことを思い出す。
「お前は、あの娘のどこを気に入った?」
「組頭……それは、え、笑顔…です」
「は?」
棒術で倒された相手に対して、笑顔が可愛いから好きになった?棒術の腕前とか忍術に詳しいとか、あんな娘でも忍術学園に勤めているのだ。何かしら利用価値があって当然だし、そこに目をつけるべきではないのか?
「な!なんですか、その反応は!いいじゃないですか!可愛いじゃないですか笑顔!」
私の思考など全く意に介していない部下に、ため息をつくことも憚る。
「聞いた私が馬鹿だった」
「あ!組頭酷いですよ!私は本気ですよ!」
頬を染める姿に、内心苛立ちのようなものを感じていた。
「いいか尊奈門。忠告しておくが、あの娘に特別な感情を抱くな。忍者には必要のないものだ」
「え?でも…!」
まだ若い彼は、正直に対抗の眼差しを向ける。
大事な部下に私は敢えて厳しく接した。
「もし、あの娘を本当に欲しいと思うなら、どんな手段を使ってでも手に入れることだ。中途半端に愛だの恋だの抱いたところで弱点にしかならないからね」
自分でも冷たい声だと思うほど、冷徹な口調だった。
私を見上げる尊奈門の眼差しが少しだけ揺れる。
「……どんな手段でも、とは?」
「聞きたいか?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「組頭、それは詩織さんには酷じゃ……」
「尊奈門。言っただろ?本当に欲しいと思うなら、どんな手段でも使うんだと」
困惑の表情を浮かべる若い部下に、苦笑を向ける。
恋愛なんてバカバカしいものだ。こうやって策も戦略も全て感情で意味の無いものになってしまうんだからな。
「…分かりました」
覚悟を決めたその表情に、少しだけ尊奈門の成長を感じた。
竹筒の中身がなくなったことを確認し、腰に提げ直す。
「お前が土井殿に一矢報いるなら、これほど好機はないだろうな」
そう呟き、忍者隊への道を急いだ。
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