20.待ってるから
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「っくしゅ」
行燈の灯りが部屋を照らす中、半助さんがくしゃみをした。
「寒い中走って風邪を引いてしまいましたかね?」
「そう、かな?ふふ、でもこうやって暖をとるので大丈夫ですよ」
彼の素肌が、私の肌に直に触れる。
先ほどまで彼に求められていた身体は敏感に彼を感じていた。
ぬくもりと比例するように、触れることで安心を抱いていた。
どんなに尊奈門さんや雑渡さんから言われた言葉も、彼に触れていれば忘れられる気がした。
「今日はなんだか甘えん坊ですね」
「こんな私は嫌いですか?」
「嫌いじゃないけど……なにか隠してませんか?」
半助さんに雑渡さんたちのことを話していない。
ただでさえ、神経性胃炎の彼なのだ。
彼に余計な心配をかけたくなかった。
だから、話題を逸らす。
「隠してるわけじゃないですが…半助さんとの将来を考えていました。きっと楽しくて幸せなんだろうなと。半助さんはどう思います?」
なるべく気軽なふりをして、聞いてみたつもりだった。
半助さんは、私の頭をぽんぽんと優しく撫でる。
考え込んでいる様子に、鼓動が静まるのを感じた。
「詩織さんのことが、大事だから」
真剣な瞳でそう告げた彼は、少しだけ迷うように視線を落とす。
「だから……焦らずに、ゆっくり進んでいきたいと思ってます」
その言葉に込められた優しさは、私を安心させるものだったのかもしれない。それでも。
「ゆっくり……ですか」
自然と声が小さくなった。
大事だから焦らずゆっくり。
彼の言葉が、嬉しくないわけじゃない。だけど、大事だからこそ慎重になりすぎて、私は彼の中でどんどん重たい存在になっているんじゃないか。そんな気がしてしまう。
私なんかのことを大事に思わせてしまうのが、その言葉の意味も想いも分かっているはずなのに、胸が重たくなって、どうしても前向きに受け取れない私がいた。
雑渡さんの抑揚のない乾いた笑いと共に脳裏を過ぎった。
『お嬢さんのその想いは、彼にとったらただの重荷だというのが分からないのか?』
「私、待つのは慣れてますから」
半助さんのことを信じている。
それは揺るがないはずだと祈っている。
なのに、
彼の手を握っていないと、不安に押しつぶされそうな気がして、その晩、私は眠りにつくまで彼の手のひらをずっと握っていた。
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