18.なにしをば乞う
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薄暗い彼女の部屋に、肌が触れ合う音と彼女の甘い吐息が微かに響く。
「…っ、はん…すけ…さんっ、はんすけ、さんっ」
何度も私の名前を呼びながら腰を振る姿に、反り返った自身が衰えることはないまま彼女の深くめがけて突き上げる。
本当は嫉妬でこんなふうに抱いているわけじゃないんだと、私自身が気付いていた。
自分でも不思議なほど、詩織さんが遠くに行ってしまいそうな気がしたのだ。なにか確信があったわけじゃない。だけど、そう思ってしまった。
きり丸と団蔵が揉めたとき、私が止めようとする前に清八さんが仲裁に入ったのを見て、物陰に隠れて見守っていた。
『たしかに詩織さんは素敵な女性です』
『私にはもったいない方です』
清八さんの言葉は、彼の温和な性格をそのまま表したものだった。
彼の言葉に、自問してしまった。
果たして、私は詩織さんに相応しいといえるのか。
冬休みの間だって、尊奈門君が襲来したとき詩織さんは一人だったのだ。今後も今回と同じように倒せるとは限らない。
詩織さんには、安全で平和な場所で笑っていてほしい。
それがたとえ私のそばでなくとも。
それこそ、清八さんのように忍者とは関係もない穏やかな場所で、過ごすほうが幸せなのではないかと。
答えのない問いを自問して、
彼女を求めて、
そんな無責任な自分がどうしようもなく情けなく見えた。
他人を決して恨まず、優しい彼女のことを幸せにしたい。
そう思っていた。けれどそれは私の独りよがりだったんじゃないか。
心のどこかで、この幸せは有限なのではないかと、夢から覚めてしまうのではないかと、普段なんとかなるさと楽観的な自分が、ひどく感傷的だった。
目の前で大きく体をうねらせ、充足感に満ちた彼女の表情に、私は彼女を抱き締める。
――今だけ、いま、この瞬間が永らえばいい。
静まり返った部屋に、彼女のか細い声と重なった呼吸音だけが響く。
「このまま、部屋に泊まっていかれますか?」
「……嬉しいのは山々だけど、仕事が残っているんだ」
寂しそうな表情をする彼女にそっとキスをする。
「突然来てすまなかったね」
「いえ、半助さんも無理しないでくださいね?」
「では楽しみでも取っておきましょうか。今度のお休みにどこかでかけましょう」
呆れるほど不安な気持ちを押し殺して笑顔を作っていた。
つらつらと言葉を並べられる自分に嫌気がさす。
『雪下さんの前だとありのままな自分がいて不思議な気持ちです』
そんなことを言っていたのは誰だ。
重要で、大切で、でも本当の胸の内を打ち明けるのは怖くて、だから気付かないふりをする。
一度だけ眠っていた彼女に伝えた、いや……伝えかけた言葉を思い浮かべて飲み込む。
関係が変わることを恐れていた彼女のように、私もまた恐れている。
彼女の目がわずかに潤んで、安心したような微笑みを浮かべていた。
「そしたら、少し歩いたところに人気の甘味処があるので行きませんか?」
「ええ、そうしましょう」
そう約束をして彼女の部屋の戸を閉める。
懐から折り畳んだ紙を取り出し、ため息をつき、再び懐へ仕舞う。
夜の闇に溶け込むように、私は塀を飛び越えた。
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