18.なにしをば乞う
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
忍術学園へ戻ると、少しだけ騒ぎになっていた。
井戸の辺りで団蔵君ときり丸君が言い合いをしていたのだ。その周囲をは組の子たちが心配そうに囲う。
「なんできり丸ばっかり!」
「なんだよ!」
「ちょっと!きり丸も団蔵も止めなよっ」
二人を止めようとする乱太郎君に、事情を尋ねる。
団蔵君が、私と清八さんが馬に乗って出かけるのを見かけたのだという。つまり、私と清八さんがデートしてるように見えたのだ。
それで「清八なら優しいし、詩織さんとお似合いだよな」と言ったことに対して、きり丸君が「詩織さんには土井先生が似合うだろ」と言い出し、口論に発展したらしい。
「詩織さんには男気があって優しい清八が合う!」
「いいや!土井先生!冬休みの間、一緒に住んでたんだから!」
「いーや!清八だよ!第一、きり丸は土井先生だけじゃなくて詩織さんまで独り占めして!ずるいだろ!」
「なんだよ!そうなったんだから仕方ないだろ!先生だって詩織さんとお似合い!」
「いーや!清八!」
「土井先生!」
「清八!」
いがみ合う二人に、清八さんが「若旦那!」と駆け寄る。
「清八!……清八だって、詩織さんのこと良いなって思うだろ?」
団蔵君が清八さんに視線を投げかける。清八さんは、片足を地面につけて団蔵君と目線を合わせると、穏やかな口調で言った。
「若…たしかに詩織さんは素敵な女性です。優しいですしお綺麗ですし。でも、私には勿体ない方です。それに私が詩織さんのことを気になっていたとしても、どんな人と付き合うかは詩織さんが決めることですよ。若が私のためにきり丸君といがみ合うのは止めてください」
「でも!……わかった……ごめん、きり丸」
清八さんの言葉に、きり丸君も冷静になり、「いいよ団蔵。俺のほうこそごめん」と謝った。
うまく場を収めた彼は、手網を引いて馬を歩かせる。
私も彼の後ろを歩き、「先ほどはありがとうございました」とお礼を伝えた。
「いえ、私が身分不相応なのは分かっていますから。先ほどの話だと、土井先生と良い感じなのでしょう?顔にそう書いてあります」
笑みを零す清八さんに、かぁ〜っと顔が熱くなる。
「土井先生なら安心ですね。いつか若旦那も分かってくれると思いますよ」
「……清八さん」
本当に目の前の彼は私と一つしか違わないのだろうか。
「ではそろそろ加藤村に戻ります」
「お気をつけください」
清八さんは来た時と同じく、塀を飛び越えて忍術学園を後にした。馬の蹄の音が聞こえなくなるまで、私は空を見上げていた。
◇
その夜、自室で書物を読んでいると、戸を叩く音がした。
「はーい」
戸を開くとそこには半助さんがいた。
忍者装束を着た彼に、事務の仕事かと思ったのも束の間、彼は部屋に入るなり戸を閉めて肩に寄りかかった。
「半助さん?」
私の肩に顔を埋めた半助さんは、両肩に手を回し強く抱きしめる。
「……あの?……っん」
キスを受け止めるしかない私は、ただ彼の求めに応じるばかり。
「…っん、……んっんん…っはぁ…ん、…」
何度も唇を離しては、再びキスして、
何度も、
唇の柔らかさを確認するかのように、彼はキスを繰り返す。
心地良い体温と唇の感触に酔いそうになる。
「半助さんっ……どうしたん、ですかっ?」
半助さんは再び私の肩に顔を埋める。
そして寝間着を少しはだけさせて、そこに口付けを落とした。突然のことに吐息が洩れる。
「いったい、どうしたんですか…?」
「………すまない」
そこで半助さんは動きを止めて、小さな声で謝った。
彼に眼差しを向けるけれど、薄暗い室内では分からない。
「もしかして、今日のきり丸君と団蔵君の喧嘩を聞かれましたか?」
「……それもそうだし、詩織さんと清八さんが馬に乗って塀を飛び越えていくのも見ました」
「あ、あの…あれにはちゃんと理由があって…!」
「小松田くんから聞いたよ」
「それなら……っん、あっ……あっ……ん、…」
首筋を半助さんの舌が這う。
気持ちが昂ぶるには十分だった。
半助さんのそれは嫉妬ということと、
それによって心を痛めていることだけが私にも伝わってきた。
「私には半助さんだけ、ですよ?」
「……こんなふうに、詩織さんに触れていないと遠くに行ってしまいそうで、つい…すみません」
「私はずっと傍にいますよ?ずっと」
半助さんの頬に手を添える。
泣きそうに瞳を潤ませて流すまいと力んでいる。
……不器用な人。
素直に嫉妬したと言えず、体を重ねて肌のぬくもりで安心しようとする彼が、ひどく不器用に見えて同時に愛おしく思った。
……大好き。
私から唇を重ねる。
寝間着の帯を解き、その身体を彼にくっつける。
「…詩織、さん?」
「どんな半助さんも好きですよ」
そう言うと、彼がいつものように「やっぱり詩織さんには敵わないな」と枯れた声で笑った。
彼に求められる今だけは、私にとっての存在意義が見出せるような気がしていた。
→