15-1.陽だまりのような
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目が覚めたのはまだ暁の薄ら明るい時間帯で、きり丸君も土井先生も眠っていた。私は横向きになってきり丸君の寝顔を見つめながら、一昨日のことを思い出していた。
冬祭りから涙を流して帰ってきた私を見るなり、『土井先生と何かあったんすか?』と心配してくれた。
事情を伝えると彼は私を慰めてくれた。
『久々知先輩と鉢屋先輩と不破先輩が土井先生に!?あちゃ〜、俺たち一年生でも見破れませんもん、詩織さんなら当然ですよ。むしろ何で先生達が分かるのか知りたいですよ』
『ごめんね、泣いちゃって』
『別に泣かれるのは困らないんですけど、土井先生とはこの前仲直りしたんじゃなかったんですか?』
『うん…まあね』
『もっと自分にワガママになっていいと思いますよ。ていうかはっきり言わないと、相手は何をしてほしいのか分からないじゃないですか』
『そう、だね』
『もっと、土井先生を信じて伝えたらどうすか?』
『……うん』
きり丸君のいうように思っていることを包み隠さず伝えることができればいいのに。
そのとき、トモミちゃんとユキちゃんが戸口から顔を出した。
『やっぱり詩織さんは土井先生のお宅だったんですね!』
『お茶しに行きませんか?』
『ユキちゃん、トモミちゃん!おシゲも忘れないで〜!』
評判の良い甘味処で、トモミちゃんたちから土井先生との関係を事情聴取されていた。
『もうくノ一教室の中ですっごく話題になってたんですよ?詩織さんが土井先生と付き合ってるんじゃないかって』
『そうですそうです。詩織さん、土井先生のことをどう想ってるんですか?』
二人から好奇心いっぱいの眼差しが向けられる。
『こ、こども思いで優しい先生、だなって』
『じゃあ!土井先生とは付き合ってるんですか!?』
『うーん…ごめんね?これ以上は、言えないんだ』
もうこれはそういう関係なのだと認めているようなものだったけれど、これ以上上手く繕うことが難しかった。
『…それって…てことは…きゃー!!』
『ほらね?トモミちゃん、私の言ってたとおりだったでしょ?』
『ユキちゃん、それは私も言ったでしょ?』
『もー二人とも!でも詩織さんと土井先生って何だかすごいお似合いですー!』
『『ほんとほんと!』』
三人が同時に頷く。
『で、土井先生とは何かあったんですか?さっき長屋にいたときの詩織さん、泣いてるようでしたけど』
『今も少し目が腫れてますし』
こんなこと、生徒に打ち明けるのはダメだと思いつつ、でも誰かに相談したかった私はつい口を滑らせていた。
『もし、もしね?もしもの話だからね?』
そう前置きをして、話した。
『好きな人とデートすることになったとして、その途中で他の人が好きな人に変装して、それに気付かないでデートをしていたら、どうする?』
『え!?それは悲しいに決まってます!』
『もしかして変装してたのって久々知先輩ですか?』
『もしもの話って言ったでしょ?』
『そんなことがあったら疑心暗鬼がなっちゃいますね』
『おシゲならぁ、本物の好きな人とギューってして、離れないようにするです!』
相談事はそこでおしまいにして、その後はくノ一教室の話や町で人気の雑貨屋さんなどの話で盛り上がった。
ユキちゃん、おシゲちゃんは夕陽が傾く前に帰っていき、私はなかなか帰る決断ができずズルズルとトモミちゃんの実家の手伝いをしながら時間を持て余していた。
夕陽が山の向こう側に沈み、ようやく帰らねばならなくなった。重たい腰を持ち上げた私に、トモミちゃんが小さな包みを渡してきたのだ。
『これは匂い袋です。色の授業で使うやつなんですけど、くのたまの先輩から試しに作ったものを貰ったんです。私は興味がないので、詩織さん使ってください』
そしてそれは今も風呂敷に入れたまま。
土井先生が言ってくれた『怖くないと思えるまで待ちますよ』という言葉が、胸にあたたかく広がって、彼の優しさが心に染みる。
そんな彼と関係を進めたい。
少しだけそう思えた。
「雪下さん、起きてたんですね」
「ええ、きり丸君の寝顔が可愛いなと眺めてました」
「寝起きの雪下さんも可愛いですよ」
土井先生の優しげな眼差しが向けられる。
まだ寝ぼけているような眠そうな瞳。
彼は布団から上半身を起こし、少しだけ身を乗り出す。
目と鼻の先になった距離に、鼓動が高なった。
まだ、きり丸君は眠っているから大丈夫ですよ。
そんなふうな眼差しで、私へと近付き、その距離を埋めた。
声を漏らさないようにすればするほど、唇に意識が集中していく。
私はいま一番幸せ者だと思った。
唇が離れ、どちらからともなく吐息をつく。
「っふ…久しぶりですね」
「ですね」
指を絡め、おでこをコツンと当てる。
柔らかな陽射しが窓から零れてきて部屋を明るくさせる。
「あの〜、もう起きていいすか?」
「「……っ!!」」
バッと握っていた手のひらを離し、私たちは距離を取った。
けれど、きり丸君も寝ぼけているのか私に向かって「ん!」ときり丸君が両手を伸ばしすのだった。
それはまるで、小さい頃、私が母にそうして甘えていた仕草と重なる。
私は両手を広げて、きり丸君を優しく抱き締めた。
土井先生と視線がぶつかり、私はふふ、と微笑んだ。
「ほら、土井先生も私たちとギュッしましょう」
そう言うと、彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、けれどホッと温かい眼差しに変わると、同じように両手を広げ、私ときり丸君を優しく包み込んだ。
→
冬祭りから涙を流して帰ってきた私を見るなり、『土井先生と何かあったんすか?』と心配してくれた。
事情を伝えると彼は私を慰めてくれた。
『久々知先輩と鉢屋先輩と不破先輩が土井先生に!?あちゃ〜、俺たち一年生でも見破れませんもん、詩織さんなら当然ですよ。むしろ何で先生達が分かるのか知りたいですよ』
『ごめんね、泣いちゃって』
『別に泣かれるのは困らないんですけど、土井先生とはこの前仲直りしたんじゃなかったんですか?』
『うん…まあね』
『もっと自分にワガママになっていいと思いますよ。ていうかはっきり言わないと、相手は何をしてほしいのか分からないじゃないですか』
『そう、だね』
『もっと、土井先生を信じて伝えたらどうすか?』
『……うん』
きり丸君のいうように思っていることを包み隠さず伝えることができればいいのに。
そのとき、トモミちゃんとユキちゃんが戸口から顔を出した。
『やっぱり詩織さんは土井先生のお宅だったんですね!』
『お茶しに行きませんか?』
『ユキちゃん、トモミちゃん!おシゲも忘れないで〜!』
評判の良い甘味処で、トモミちゃんたちから土井先生との関係を事情聴取されていた。
『もうくノ一教室の中ですっごく話題になってたんですよ?詩織さんが土井先生と付き合ってるんじゃないかって』
『そうですそうです。詩織さん、土井先生のことをどう想ってるんですか?』
二人から好奇心いっぱいの眼差しが向けられる。
『こ、こども思いで優しい先生、だなって』
『じゃあ!土井先生とは付き合ってるんですか!?』
『うーん…ごめんね?これ以上は、言えないんだ』
もうこれはそういう関係なのだと認めているようなものだったけれど、これ以上上手く繕うことが難しかった。
『…それって…てことは…きゃー!!』
『ほらね?トモミちゃん、私の言ってたとおりだったでしょ?』
『ユキちゃん、それは私も言ったでしょ?』
『もー二人とも!でも詩織さんと土井先生って何だかすごいお似合いですー!』
『『ほんとほんと!』』
三人が同時に頷く。
『で、土井先生とは何かあったんですか?さっき長屋にいたときの詩織さん、泣いてるようでしたけど』
『今も少し目が腫れてますし』
こんなこと、生徒に打ち明けるのはダメだと思いつつ、でも誰かに相談したかった私はつい口を滑らせていた。
『もし、もしね?もしもの話だからね?』
そう前置きをして、話した。
『好きな人とデートすることになったとして、その途中で他の人が好きな人に変装して、それに気付かないでデートをしていたら、どうする?』
『え!?それは悲しいに決まってます!』
『もしかして変装してたのって久々知先輩ですか?』
『もしもの話って言ったでしょ?』
『そんなことがあったら疑心暗鬼がなっちゃいますね』
『おシゲならぁ、本物の好きな人とギューってして、離れないようにするです!』
相談事はそこでおしまいにして、その後はくノ一教室の話や町で人気の雑貨屋さんなどの話で盛り上がった。
ユキちゃん、おシゲちゃんは夕陽が傾く前に帰っていき、私はなかなか帰る決断ができずズルズルとトモミちゃんの実家の手伝いをしながら時間を持て余していた。
夕陽が山の向こう側に沈み、ようやく帰らねばならなくなった。重たい腰を持ち上げた私に、トモミちゃんが小さな包みを渡してきたのだ。
『これは匂い袋です。色の授業で使うやつなんですけど、くのたまの先輩から試しに作ったものを貰ったんです。私は興味がないので、詩織さん使ってください』
そしてそれは今も風呂敷に入れたまま。
土井先生が言ってくれた『怖くないと思えるまで待ちますよ』という言葉が、胸にあたたかく広がって、彼の優しさが心に染みる。
そんな彼と関係を進めたい。
少しだけそう思えた。
「雪下さん、起きてたんですね」
「ええ、きり丸君の寝顔が可愛いなと眺めてました」
「寝起きの雪下さんも可愛いですよ」
土井先生の優しげな眼差しが向けられる。
まだ寝ぼけているような眠そうな瞳。
彼は布団から上半身を起こし、少しだけ身を乗り出す。
目と鼻の先になった距離に、鼓動が高なった。
まだ、きり丸君は眠っているから大丈夫ですよ。
そんなふうな眼差しで、私へと近付き、その距離を埋めた。
声を漏らさないようにすればするほど、唇に意識が集中していく。
私はいま一番幸せ者だと思った。
唇が離れ、どちらからともなく吐息をつく。
「っふ…久しぶりですね」
「ですね」
指を絡め、おでこをコツンと当てる。
柔らかな陽射しが窓から零れてきて部屋を明るくさせる。
「あの〜、もう起きていいすか?」
「「……っ!!」」
バッと握っていた手のひらを離し、私たちは距離を取った。
けれど、きり丸君も寝ぼけているのか私に向かって「ん!」ときり丸君が両手を伸ばしすのだった。
それはまるで、小さい頃、私が母にそうして甘えていた仕草と重なる。
私は両手を広げて、きり丸君を優しく抱き締めた。
土井先生と視線がぶつかり、私はふふ、と微笑んだ。
「ほら、土井先生も私たちとギュッしましょう」
そう言うと、彼は一瞬驚いた表情を浮かべ、けれどホッと温かい眼差しに変わると、同じように両手を広げ、私ときり丸君を優しく包み込んだ。
→