13.不器用、二人
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
冬休みが直前に迫り、事務仕事も忙しくなる頃、
食堂の手伝いを終えて事務室に戻ると、吉野先生がそっと巾着を差し出した。
「これは…?」
「餞別です。冬休みは土井先生の長屋にお世話になるそうじゃないですか。何でもイナゴ料理が出るって聞いて、少しでも足しになればと思いまして」
「そんな気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」
「いやいや。遠慮せず受け取ってください」
吉野先生の温かい笑顔に、私は思わず「ありがとうございます」と頭を下げた。
*
翌日、今度は廊下で野村先生に呼び止められた。
「雪下さん、ちょっと良いかな?」
「はい、どうしましたか?」
「冬休みは土井先生のところに泊まるんだってね。ほら、これ」
そう言って、野村先生は静かに小さな袋を差し出す。
「あの…これは?」
「まあ、いわゆる餞別だ。イナゴ料理が好きじゃなかったら、好きなものでも買いなさい」
「そ、そんな・・・お気遣いなんて・・・」
野村先生はくすっと笑い、「まあ、学園の大切な仲間だからね」と私の肩を軽く叩くと行ってしまった。
*
そのまた翌日、今度は松千代先生に呼び止められた。呼び止められたというより、図書室にいると不意に声が響いてきた。
「冬休みは土井先生ときり丸君と過ごすんですよね?ほんの気持ちばかりですが美味しいご飯を食べてください」
振り返ると小銭の入った袋がひっそりと置かれていた。
*
そんなことが何度かあった。
冬休み前日の夜、山本シナ先生が部屋に訪れた。
「冬休みは土井先生の長屋で、きり丸君たちと過ごすのよね?」
「はい。みなさん知ってらっしゃいますよね…」
「二人が恋仲なのは有名だもの」
山本先生の言葉に少しだけ胸がザワついた。私と土井先生は確かに想いが通じ合っているかもしれないけれど、その関係を言葉で現していいのか自信がなかった。
前に、久々知くんたちに「付き合ってるんですか?」と聞かれたとき、誤魔化したのもそれが理由だったりする。
山本先生の言うように『恋仲』なのかもしれない。
けれど、確信が持てなかった。
山本先生が小さな巾着をそっと置く。
「これ、気持ち程度だけど」
「あの…他の先生方もこうして心遣い頂いているんですが、どうしてなのでしょう?」
「ふふ、みんな貴方のことが好きだからに決まってるじゃない」
笑みを浮かべる山本先生が素敵で、思わずドキッとしてしまった。
「今夜は月が綺麗よ。いつものところで彼、待ってるんじゃない?」
「あ…や、やっぱり先生方みなさん…それも知ってらっしゃるんですね」
「忍術学園の教師ですからね」
ニッコリと微笑む姿に、変な汗が吹き出た気がした。
◇
月見亭に呼び出しをされてからというもの、
私も土井先生も仕事が溜まっていない日の夜は、こうして会うことが日課のようになっていた。
暗い道を歩きながら、山本先生の言っていたことを思い出す。そうか、先生たちはみんな知っているんだ…道理で月見亭に行くときも帰るときも、誰にも会わないのは、もしかして気を使ってくれていたのだろうか…?
月見亭にはすでに土井先生が待っていた。
「お待たせしてしまいすみません」
「いえ、私も来たばかりですよ」
あの日、口付けをして以降、先生とは手を繋ぐだけの関係に留まっていた。今夜も月を眺めながら、お互いに指を絡め合い手を繋ぐ。
土井先生の指は長くて、でも骨張っている感じが男性だと実感する。そんな指がに包まれるから、自分の手のひらがとてもちっぽけに思えてしまう。
私は事務仕事の他愛ない話をして、土井先生はは組の良い子たちのトラブルや面白い話をしてくれた。
彼の話に耳を傾けながらも、山本先生と話して抱いた疑問を口にするかどうか、少しだけ悩んでいた。私たちの関係は「恋人」なのか、と。
「ところで、色んな先生方からたくさん餞別をいただいたんです。おかげで冬休みの間、毎日お米が食べられそうです」
「え?そんなにたくさんもらったんですか?」
と驚いた様子で声を上げる。
「皆さん、雪下さんのことを大切に思ってるんですね」
「ええ…なんだか照れくさいですけど、ありがたいことです」
絡めた彼の親指が、手の甲を擦りくすぐったい。
その仕草がヤキモチをあらわしているのだと、最近気付くようになった。
「でも、私にとっての特別は…土井先生だけ、ですよ?」
「なんか…上手く丸め込もうとしていませんか?」
「ふふ、丸め込まれてくださいよ」
絡まっていた指先が、手のひらをこちょこちょと遊び回る。
「くすぐったいですよ、先生」
そういう私も同じように、彼の手のひらに指先でこちょこちょと動かす。口から零れる吐息は楽しげで、この時間がずっと続いてほしいと思った。
「今日の雪下さんは少し子どもっぽいですね」
「ふふ…土井先生も同じじゃないですか」
「可愛らしい手があったので触っていたんです」
胸が締め付けられる。
高鳴る鼓動は心地よくて、手放したくない温もりがあって、それが嬉しいと同時に悲しくもあった。
いつか、なんて考えたくないけれど、
この温もりを手放さなければならない時が、いつか来てしまうのではないかと、今が幸せすぎるからそんな事ばかり考えてしまう。
「恋人」なんていう関係を言葉にしてしまえば、それは余計に確実になるような気さえした。
今はこのまま、お互いに好きだと分かっている状態が心地よくて、仮に失ってもダメージが少ないような気がして、こしょばせている指先をパッと開き彼の手のひらに自ら捕まった。
→
食堂の手伝いを終えて事務室に戻ると、吉野先生がそっと巾着を差し出した。
「これは…?」
「餞別です。冬休みは土井先生の長屋にお世話になるそうじゃないですか。何でもイナゴ料理が出るって聞いて、少しでも足しになればと思いまして」
「そんな気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」
「いやいや。遠慮せず受け取ってください」
吉野先生の温かい笑顔に、私は思わず「ありがとうございます」と頭を下げた。
*
翌日、今度は廊下で野村先生に呼び止められた。
「雪下さん、ちょっと良いかな?」
「はい、どうしましたか?」
「冬休みは土井先生のところに泊まるんだってね。ほら、これ」
そう言って、野村先生は静かに小さな袋を差し出す。
「あの…これは?」
「まあ、いわゆる餞別だ。イナゴ料理が好きじゃなかったら、好きなものでも買いなさい」
「そ、そんな・・・お気遣いなんて・・・」
野村先生はくすっと笑い、「まあ、学園の大切な仲間だからね」と私の肩を軽く叩くと行ってしまった。
*
そのまた翌日、今度は松千代先生に呼び止められた。呼び止められたというより、図書室にいると不意に声が響いてきた。
「冬休みは土井先生ときり丸君と過ごすんですよね?ほんの気持ちばかりですが美味しいご飯を食べてください」
振り返ると小銭の入った袋がひっそりと置かれていた。
*
そんなことが何度かあった。
冬休み前日の夜、山本シナ先生が部屋に訪れた。
「冬休みは土井先生の長屋で、きり丸君たちと過ごすのよね?」
「はい。みなさん知ってらっしゃいますよね…」
「二人が恋仲なのは有名だもの」
山本先生の言葉に少しだけ胸がザワついた。私と土井先生は確かに想いが通じ合っているかもしれないけれど、その関係を言葉で現していいのか自信がなかった。
前に、久々知くんたちに「付き合ってるんですか?」と聞かれたとき、誤魔化したのもそれが理由だったりする。
山本先生の言うように『恋仲』なのかもしれない。
けれど、確信が持てなかった。
山本先生が小さな巾着をそっと置く。
「これ、気持ち程度だけど」
「あの…他の先生方もこうして心遣い頂いているんですが、どうしてなのでしょう?」
「ふふ、みんな貴方のことが好きだからに決まってるじゃない」
笑みを浮かべる山本先生が素敵で、思わずドキッとしてしまった。
「今夜は月が綺麗よ。いつものところで彼、待ってるんじゃない?」
「あ…や、やっぱり先生方みなさん…それも知ってらっしゃるんですね」
「忍術学園の教師ですからね」
ニッコリと微笑む姿に、変な汗が吹き出た気がした。
◇
月見亭に呼び出しをされてからというもの、
私も土井先生も仕事が溜まっていない日の夜は、こうして会うことが日課のようになっていた。
暗い道を歩きながら、山本先生の言っていたことを思い出す。そうか、先生たちはみんな知っているんだ…道理で月見亭に行くときも帰るときも、誰にも会わないのは、もしかして気を使ってくれていたのだろうか…?
月見亭にはすでに土井先生が待っていた。
「お待たせしてしまいすみません」
「いえ、私も来たばかりですよ」
あの日、口付けをして以降、先生とは手を繋ぐだけの関係に留まっていた。今夜も月を眺めながら、お互いに指を絡め合い手を繋ぐ。
土井先生の指は長くて、でも骨張っている感じが男性だと実感する。そんな指がに包まれるから、自分の手のひらがとてもちっぽけに思えてしまう。
私は事務仕事の他愛ない話をして、土井先生はは組の良い子たちのトラブルや面白い話をしてくれた。
彼の話に耳を傾けながらも、山本先生と話して抱いた疑問を口にするかどうか、少しだけ悩んでいた。私たちの関係は「恋人」なのか、と。
「ところで、色んな先生方からたくさん餞別をいただいたんです。おかげで冬休みの間、毎日お米が食べられそうです」
「え?そんなにたくさんもらったんですか?」
と驚いた様子で声を上げる。
「皆さん、雪下さんのことを大切に思ってるんですね」
「ええ…なんだか照れくさいですけど、ありがたいことです」
絡めた彼の親指が、手の甲を擦りくすぐったい。
その仕草がヤキモチをあらわしているのだと、最近気付くようになった。
「でも、私にとっての特別は…土井先生だけ、ですよ?」
「なんか…上手く丸め込もうとしていませんか?」
「ふふ、丸め込まれてくださいよ」
絡まっていた指先が、手のひらをこちょこちょと遊び回る。
「くすぐったいですよ、先生」
そういう私も同じように、彼の手のひらに指先でこちょこちょと動かす。口から零れる吐息は楽しげで、この時間がずっと続いてほしいと思った。
「今日の雪下さんは少し子どもっぽいですね」
「ふふ…土井先生も同じじゃないですか」
「可愛らしい手があったので触っていたんです」
胸が締め付けられる。
高鳴る鼓動は心地よくて、手放したくない温もりがあって、それが嬉しいと同時に悲しくもあった。
いつか、なんて考えたくないけれど、
この温もりを手放さなければならない時が、いつか来てしまうのではないかと、今が幸せすぎるからそんな事ばかり考えてしまう。
「恋人」なんていう関係を言葉にしてしまえば、それは余計に確実になるような気さえした。
今はこのまま、お互いに好きだと分かっている状態が心地よくて、仮に失ってもダメージが少ないような気がして、こしょばせている指先をパッと開き彼の手のひらに自ら捕まった。
→
