10.それはまるで
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裏庭にいるという確証が自分の中にあった。
そこでは雪下さんと利吉くんが何か話し込んでいた。私の気配に気付いた彼が言葉を発する。
「盗み聞きですか、土井先生」
警戒するような声色で尋ねる利吉くんに、私は微笑んだ。
「盗み聞きだなんて利吉くん、私は雪下さんに話があって来たんだもの」
「私に、ですか?」
私の存在に驚いた彼女の視線が私に向けられる。
久しぶりに雪下さんと真正面から話す気がする。
情けないほど高鳴った鼓動を鳴り止ますのは難しかった。
「冬休みなんですけど、もしよろしければ、私の長屋へ来ませんか?」
私の言葉に、彼女が目を見開く。
「……いいんですか?」
「はい。もちろんです。きり丸も喜ぶでしょう…それに、私も雪下さんと仲直りしたいです」
一歩、また一歩と雪下さんと距離を詰める。
「わざと避けていた訳ではないんです。は組の生徒が詩織さん詩織さんと呼ぶので、私までつい『詩織さん』と呼びそうになっていて、教師として適切な距離を保たないとと思って……でも、結果的に雪下さんを傷付けてしまいました。すみません」
雪下さんは肩をふるふると震わせ、口元を手で覆う。
その可愛らしい姿が緊張を解していく。
「………よかった……よかったです」
秋の風が落ち葉を揺らす。
利吉くんもまた、雪下さんを見つめている。
彼女は眉を寄せて利吉くんに視線を向けた。
「利吉さん。先ほどのお誘いなんですが、私……」
「……まあ、今回は土井先生に譲るとしましょうかね」
利吉くんはそう言って、少し冗談っぽく微笑んだ。
それは、まだ私に対して雪下さんを諦めたわけではないと言っているようだった。
「詩織さん、また土井先生のことで悩んだら、私がいつでも相談にのりますからね。貴女に悲しい顔は似合いませんよ」
雪下さんにそう言うと、利吉くんの強い眼差しが私に向けられた。
「では私はこれで。父の洗濯物を持って帰らないといけませんから」
私と雪下さんの合間に風が通り過ぎる。
彼女の長い睫毛が瞬いた。
「……あの、一つ我儘を言ってもいいですか?」
「もちろんです」
雪下さんは手を私に差し向ける。
「……手を…握っていただけますか」
頬を栞の紅葉のように染める姿に、彼女が私に抱く想いがただの同僚に対するそれではないのではないかと、そこでようやく理解した。
雪下さんに触れたい。
もう、彼女を悲しませたくない。
私の中の強い想いが、握った彼女の手を引き寄せていた。
事務室で泣いていた彼女にしてあげたかったことをしていた。
「土井……先生……?」
「私も我儘を一つよろしいですか?もう少しこのままでもいいですか?」
返事が聞こえない代わりに、彼女が頷いたのを肩越しに感じていた。
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